博士課程の会社評価

引き続き、「民間企業における博士の採用と活用(製造業の研究開発部門を中心とするインタビューからの示唆)」の医薬品企業の該当箇所を抜粋して紹介します。

前記事はこちらです:大学院進学率の変化(最新)

博士課程を修了後に企業就職を考えている学生や、博士進学を迷っている学生はチェックする価値があると思います。修士課程後に就職する予定で、特に研究職志望の人は「なぜ博士課程に進学しないか」に対する自分なりの答えを持っていた方がよいです。就活時に会社から尋ねられる質問だからです。博士課程修了予定の人であれば、「会社が何を求めているか・期待しているか」を知っておく必要があります。


博士に対する期待(アイデア・情報リソース・ネットワーク・テーマをリード・積極性)

タテマエもあると思いますが、少なくとも表向きでは下記のようなコメントがあります。1つ目、2つ目は最近の製薬企業の事情を反映しているので、あまり知られていない観点かもしれません。

研究開発テーマは他社との差別化に繋がる勝負所であるが、新しい研究開発テーマのためのアイディアが枯渇しているのが現状である。そのため、アイディアの源となる情報源やリソース、アーリーデータを持っている人材が魅力的に映る。

博士には、新しいテーマに繋がる論文や情報に関するリソースやネットワークを提供する役割を期待したい。 研究開発テーマをリードするところから新しい製品が生まれるため、言われたことを正確に 実施できる人材より、言われる前に研究開発テーマをリードできる人材が欲しい。

製薬会社はどこでも似たようなことをやっているはずだが、当社はどうしてもマンパワーでは 大手に負けてしまう。それでも勝ちたいとなると、普通では見逃してしまうようなことを見つけてくるとか、その点を気にして明らかにするとか、勇気や積極性がなければ対応が難しといころを攻めていくことになる。なぜこのテーマを実施しているかということを、自身の言葉できちんと説明できることが大切になる。

以上引用ですが、「アイディアの源となる情報源やリソース、アーリーデータを持っている人材」というのはアカデミアでのいわばコネクションも含んでいるかもしれません。あまり研究能力が高くない(ように私には見えた)博士も製薬企業には就職しているので、そういう人はこのカテゴリで就職したのかもしれません(と思いました)。

以上引用ですが、「アイディアの源となる情報源やリソース、アーリーデータを持っている人材」というのはアカデミアでのいわばコネクションも含んでいるかもしれません。あまり研究能力が高くない(ように私には見えた)博士も製薬企業には就職しているので、そういう人はこのカテゴリで就職したのかもしれません(と思いました)。

上記に挙げた、博士の求める人材に合致している人は、大学研究者のキャリアでも有利だと思います。企業またはアカデミアを目指すに限らず、博士課程在学中に上記スキルの獲得は意識したほうがいいでしょう。一方、博士に対するネガティブな評価としては以下のようなものがあるようです。


博士に対する危惧(狭い専門性・気概なさ・指示待ち・意見なし)

博士人材のレベルが下がっているように感じている。従来の修士レベルが現在の博士レベルと等しく、従来の学士レベルが現在の修士レベルに等しい印象がある。一言にレベルというと難しいが、学生が持つ専門性の幅が狭くなっている印象がある。

指導教員からテーマの提示を受けて研究を実施する中で、指示されたことはそれなりに実施できるが、薬を作る上では指示内容を受けて対応の幅がいる。創薬研究は指示に従っていればよいのではなく、現象に対する解釈の幅や創意工夫が必要になる。最近の博士人材は、開拓者精神や一発当ててやろうという発想がなく、勇気や気概が足りないように思われる。

以前はテーマに対して意見をいうものがたくさんいたのだが、ここ最近は自分だったらこうする、こうしたいという意見をいうものが少なく、枠から出ようとしない人が多い。大学では優秀だったとしても、企業では経験がないことをやることになるので、この部分で差が出る。博士は、昔はエネルギーが強い人が多かったのだが、今はこの程度かと思うこともある。

以前はテーマに対して意見をいうものがたくさんいたのだが、ここ最近は自分だったらこうする、こうしたいという意見をいうものが少なく、枠から出ようとしない人が多い。大学では優秀だったとしても、企業では経験がないことをやることになるので、この部分で差が出る。博士は、昔はエネルギーが強い人が多かったのだが、今はこの程度かと思うこともある。


博士に対する不満・期待というのは以上のような感じらしいです。学生のレベル低下については「大学院重点化政策」の帰結と捉えるのが共通認識とみていいと思います。就活する学生は、選考課程の中で会社側の心配を払拭しなくてはいけません。

勇気や気概について、どちらかというと今アカデミア側にいる私の意見としては、最近はもうバイオ研究はやりつくされたレッドオーシャンなので、一発当てようという気概が合っても全然当たらないことに言及しておきたいです。もちろん、何とか「当たり」を見つけてこそ研究者なのですが、少なくとも、リスクを考えて研究プランを立てなければ3年で博士号は取れません。リスク思考のない人は、博士課程3年目新卒として就活するには間に合わないと思います(よってそのタイプの人は会社人事の目に触れにくいかもしれません。予想ですが)。


同じ引用資料(民間企業における博士の採用と活用)内に他業種の会社コメントもあり、概ね「博士のレベル低下」の認識では一致しているようです。

「情報通信機械器具工業」の会社コメントはわりと辛辣で、

教育に対して熱心ではない教員を減らした方がよいだろう。研究に熱心な教員が多い大学には、好きなことをやる代わりに給付金を減らすなどの対策も検討できる。自身の研究を進めるために、安い労働力として学生を利用する傾向は、学生の将来のことを考えると正しいことではない。

主張したいことを私は理解しますが、教員の「教育業績の評価」がとてもやりにくいのが問題です。実際は逆に、安い労働力として学生を働かせ、(教員が事実上代わりに論文書いて)学位を取得させることが教員の教育実績(=指導実績)にさえなってしまいます。「給付金を減らす対策」なんて検討はほぼ無理かと思いました。大学も経営行き詰まり気味ですから。


大学院生が就活する際は上記のような会社側の危惧を踏まえ、対応したらいいと思います。引用資料中のインタビューコメントは、そもそも「博士を採用候補としている会社」のコメントであることに注意すべきかもしれません。多くの会社では依然「博士は採用候補にしない」のが現状だから、そういう会社を相手にすると何をやっても無駄です。またバイオ系ではそもそも求職者過多が極端なので、すべてにおいて難易度は高いと思います。