大学院進学率の変化(最新)

学部生・大学院生の進路選択に役立ちそうな資料を見つけたので紹介したいと思います。「民間企業における博士の採用と活用(製造業の研究開発部門を中心とするインタビューからの示唆)」から引用して紹介します。

この報告は、比較的新しい、文科省の研究グループ(科学技術・学術政策研究所)の資料なので信頼性は高いと思います。特に下記2点では優れていると思いました。

(1) 学生の博士進学の忌避傾向を最近のデータから示唆している。
(2) 包み隠しのない(ようにみえる)企業からの大学院生の評価を紹介している。

企業就活を考える学生や博士進学を考える学生に関係すると思います。
ぜひ読んでみてください。


学生が博士課程進学を避けている(?)

グラフを上述資料(民間企業における博士の採用と活用)から引用します。

このグラフは「博士課程学生人数」でなく「修士課程からの進学率」のデータであることがポイントです。修士課程からの進学率が減少していることがわかります。

一方、全体としては博士課程学生の合計人数はそれほど変化しておらず、これは社会人比率の増加が関係しているようです(下図)。保健の分野で傾向が顕著らしいので、社会人比率増加は医師の大学院進学が関係しているかもしれません(医師の場合、一度働いてから博士課程に入るのが一般的です)。

修士課程後の進学率のグラフでは、2008年のリーマンショック後に進学率が少し増加するという現象がみられますが、全体としてみればきれいな右下がりグラフです。大きな社会変化が起きない限り、このまま博士進学率は減少していくと予想してもよいかもしれません。傾向が続けば、ポスドク問題等の若手就職問題は自然に和らいでいくのでしょうか。

進路に悩む学生は、上のグラフのように長期の時系列でみると、世代の差が現れることを頭の片隅においてもいいかもしれません。一昔前の世代は、今よりもっと「博士余り」の状態だったので、競争が激しく就職難だったと推測することもできそうです。(例えば、研究室に40代ポスドクがいたとしても、あなた(20代?)が20年後にそうなる可能性は相対的に低いかもしれません。)

ただ、大学での研究キャリアを目指す学生は、若手向けの大学教員のポスト自体が減少傾向であることにも注意しなくてはなりません。また、研究分野の趨勢や大学(日本自体かもしれないけれど)が主に少子化によって斜陽であることも心得ておかなければなりません。

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博士進学の「費用対効果」は低そう

結局、博士進学すべきか否か、どうなのでしょうか。もちろん研究が好きなら進学してもよさそうですし、キャリアを経済的な費用対効果で考えるのも好ましくないとも思います。でも、あまりに大きな損得が絡むのであれば、誰だってそれを考慮せざるを得ません。

実際、上のグラフで見られるようにリーマンショック後に進学率が上がったりするのは、企業が採用人数を減らす不景気時に就活したくないという損得勘定が働いていそうです。なので、企業側に博士採用のニーズがあるかどうかも、学生が進路を決めるうえで加味する要素の一つになっているのだと思います。


民間企業における博士の採用と活用」内のインタビューによりますと、どの会社も「修士でも博士でも会社に貢献する人は採る」というシンプルで当然の論理を表明しています。特に博士をマイナス評価しているわけではないようです。しかしプラス評価でもなさそう。

博士は問題点を与えられているのではなく、与えられた資料から問題点を把握し、問題解決のプロセスを自分で考えて切り開いた経験がある。このような探索的なアプローチを経験し、能力として身につけている点がよいと考える。また、博士人材はある程度の範囲内ではあるが、何でもやっていくことができる能力を備えている場合が多いように思われる。

博士と修士では、結果的に修士が選ばれることが多い。大学での研究開発と企業が行う研究開発とでは性格が異なりやることも当然異なる。修士を終えてから企業で過ごす3年間と大学院博士課程での3年間を比較すると、修士+企業で3年間の方が企業での研究開発の進め方や制約、他部門との関連についても分かるため、修士の方が同時期で比較すると即戦力になっている。

博士と修士では、結果的に修士が選ばれることが多い。大学での研究開発と企業が行う研究開発とでは性格が異なりやることも当然異なる。修士を終えてから企業で過ごす3年間と大学院博士課程での3年間を比較すると、修士+企業で3年間の方が企業での研究開発の進め方や制約、他部門との関連についても分かるため、修士の方が同時期で比較すると即戦力になっている。

修士は企業で研究開発に従事する3年の間に、企業独自の考え方や型にはまってしまう面がある。一方で、博士は入社の時点で修士が3年間ではまった型がないため、博士を採用する利点はあるように見受けられる。

以上は、医薬品会社コメントの引用です。


まとめて言うと、「博士?いいところもあるけれどね。採用するには微妙?」という印象です。

博士課程修了者の扱いが、もしプラスマイナスゼロであれば、会社で給料を得る代わりに博士課程に進学して学費を払うメリットはあるのでしょうか。ざっくり言って、学費+機会費用の損失は1000~2000万円くらいになると思います。それを支払う何らかの価値を見出せなければ、博士に進学するのは人生、特に時間の浪費です。

次の記事で、博士への期待を述べる会社コメントを紹介したいと思います。
こちら: 博士の会社評価