研究者を「半分」諦める選択の例

このわかりにくいタイトルにした理由は「研究者+諦める・辞める」での検索が多いことを最近みつけたからです。

アカポス(最終的に大学教授)を目指すキャリア途上にいるポスドクや学生は、研究者になるのを「完全に諦める」あるいは「諦めずに続ける」という二者択一で考えると思いますが、この記事では「半分/部分的に/トップ目指すのは、諦める」という、中間的な、いわば妥協案を紹介したいと思います。

結論から言うと、「医学部編入」を勧めておりバイオ系が最もマッチしますが、工学や物理、心理学なども相性がいいです。この記事の主な対象者は、アカデミアで「研究者を辞めたい・ついていけない・もう無理・なれない」という状況にあり、しかしながら完全に研究へのモチベーションを失ってはいない大学院生やポスドク、助教などです(=以前の私のような人です)。

生物系研究者にとって医学部編入が易しいことについては、こちらの記事をご覧ください。

*この記事はアカリクアドベントカレンダー2019で紹介されている記事のひとつです。
*「私が大学教員を辞めて医学生になった経緯@note」に詳しい体験記を執筆しましたのでよろしければご覧ください。医学部編入の全般的なことはこちらの記事をぜひ



比較的自由に研究でき、トップに上り詰めなくても食っていける職種は医師以外に少ない

(医学部以外の)アカデミアの研究キャリアの特徴は、「一握りの成功者とそれ以外での待遇格差が顕著」ということだと思います。大学教授になれるくらいに成功すれば、年収や雇用形態の面で悪くない待遇が得られますが、そこに至るまでのキャリアが大変で、しかも教授になれなかった場合に就ける他の職(例えば実験技術員や教育者など)は少なく、キャリアとして想定されていません。研究分野がバイオ系の場合は、民間の転職先も少ないので「高学歴ワーキングプア」が現実的な心配になります。

教授になれなかった場合のリスクを考えると、慎重な性格の人ほど、早いうちにアカデミアは辞めて民間企業(できれば研究職)に転職しておこうと思うわけですが、そもそも生物系で研究職は高倍率ですし、仮に研究職に就けても、生涯に渡って研究を続けられる保証は全然ありません(むしろ続けられることは稀)。研究者が必要なくなれば、会社の都合で別の部署に異動させられます。

安定志向+研究志向を持つ人にとっては、例えば「研究とそれ以外の仕事の掛け持ち」が可能な職でもあればいいのですが、会社に入れば仕事は会社次第ですし、一方アカデミアに残れば「教授になれるかなれないか次第の高リスクキャリア」が待っています。

私が知る範囲では、「研究とそれ以外の掛け持ち」が可能で、それが一般的なのは医師の仕事くらいです。(普通は「研究と臨床の掛け持ち」)。例えば、曜日ごとに研究または臨床(バイト含む)という生活が可能です。ここでのマイナスポイントを挙げるとすれば、研究のみに週7日専念するわけではないから、科学をリードするトップ層では競争できない、という点がありますが、この程度のマイナスは妥協点としては文句なしだと私は思います(この記事を読んでいる時点でトップ層からは脱落してると思いますし)。医師免許を取れば将来の失職リスクを考える必要がなく、比較的自由に研究できる点も魅力です。

例えば、診療した患者さんのサンプルを解析するだけで論文になりますし(倫理的な手続きなど必要)、単に症例報告だけでも学会発表できます。こんな研究では、パラダイムを変えるようなトップ研究者にはなれそうにないですが、自分の興味に従ってサイエンスの先端をフォローすることはできます。微力であっても医療の発展に貢献できるわけですし、アカデミアでの熾烈な競争=多分負け戦、に立ち向かうのと比べたら、これは魅力的ではないでしょうか。


医学は実学であり、他分野融合研究がしやすい。医学部では研究者は歓迎

研究分野の観点からすると、医学に関連し得ない分野はないのではと思います。医学=生物学、という印象は強いですが、手術器具・画像診断・CT,MRI・医療ICT等々、別の分野に入りそうなものも多いです。生命科学分野での就職難は著しいですが、幸いなことに、医学部の学士編入学では一番有利な専門分野です(大学を選べばEssential細胞生物学の復習でパスできます。英語試験は論文読解なので普段の作業)。生物系以外の研究者は、面接で動機をしつこく聞かれるかもしれませんが、博士レベルの人にとって、編入試験の要求水準はそれほど高くないです(詳しくは別記事参照)。

予算難と高齢化が進む国内事情からして「基礎研究より応用研究(医療は重要テーマの一つ)」というのが全体的な傾向です。なので、将来的な研究キャリアの見通しとしても、他の研究分野と比較したら明るい方だと思います。しかも医師免許というリスクヘッジも得られます。

というわけで、医学部への学士編入を選択肢としてお勧めしています。よかったら関連記事(後述のnoteも)ご覧ください。非医学部を出て大学院に進んだ場合、遅くても博士課程進学~学位取得頃には、将来自分が教授になれそうか否か、業績やコネ(上司の政治力)などから客観的に予想できると思います。見込みの薄い人はキャリアの方向転換したほうがいいです。研究キャリアをゼロか1で考えている人は多いと思いますが、必ずしもそんなことないです。医学部編入は、将来もできるだけ確実に研究を続けたい人にとって、条件の良い選択だと思います。


医学生のほとんどは臨床医になりたがるため、基礎研究志望者は歓迎される傾向があります。Ph.Dの肩書は一応医師のキャリアでも多少の意味があるため、例えばポスドクが医学生になった場合、博士取得にかかった3年間は時間的ロスと捉えなくてよいと思います(これはプラス思考ですが)。また、医学部に入った時点でお金の心配する必要もなくなります(他学部より奨学金に恵まれています)。また、大抵の場合、やる気さえあれば放課後(所属大学の)研究室に通うことも可能です。

問題を先送りにすると、手遅れになりかねません。

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