研究者に向いている資質その2

研究者に必要な資質として、色々な考えがあると思いますが、大体、

(1)「未知のことを解き明かしたい気持ち。好奇心。情熱。忍耐。集中力。」

が挙げられることが多いようです。これらの性格・資質は明らかに大事でしょうが、ここでは下記の要素について書いてみたいと思います。

(2)地頭の良さ
(3)楽観さ(特に金銭的な問題に対して)


研究者は普通に能力が高い

まず、地頭の良さのいうのは明らかに研究能力に直結しています。研究者は大量の論文を読み、それらを参考にしてまだ知られていない未知のものを、仮説を立てて検証していきます。発想の柔軟さとかキレのような、感性のような才能も必要ではありますが、そもそも大量の論文や日々の技術革新・新知見をインプットしつつ新しい何か(研究)をするには単純に頭で処理できる作業のキャパシティーが結構必要です。大学教員であれば、学生の教育や、実験試料や研究費を得るための書類作成業務も多くて忙しくしています。研究そのものというよりは、大前提として研究の準備や文献処理、学生の管理・マネジメントのために、ある程度の地頭が必要であると感じます(多くの博士在籍者には足りていないです)。

ある程度の高偏差値大学を卒業した学歴の人が研究者として成功する可能性が高い印象はあります。大学入試なんて、研究に必要な能力よりは、もっと基礎的な学力を測るものでしかないでしょうが、そうしたものでもやはり研究には必要であると感じます。凡的な意味での基礎がないと、新しい何かを行うことが難しいと思います。

この、「新しいことを明らかにする」は研究者にとって必要不可欠ですが、一般に(学生や世間一般から)思われているほどは、「発想の柔軟さに依る奇抜さ」「変わったアイデア」といったものは役に立たないです。特定の科学分野でパラダイムを変えたような重大な研究にはそういった要素が必要だったでしょうが、大多数の研究者にとっては、あまりに奇抜すぎると他人から認められず、そうすると研究費が取れず業績も重ねにくく、ゆえに大学ポストにありつけない事態に陥るリスクのほうが気になると思います。むしろ論理的に緻密に研究を進められ、仮説検証を経ながら、「科学知見の体系の中で抜けたパズルのピースを埋める作業」、がほとんどの研究者にとっての研究ですし、そうでないとアカデミアでの競争に負けます(ポスドクにもなれません)。


楽観的な性格は研究者に向いている

加えて、「果てしない楽観」も現在の研究者に求められる資質であると私は思います。確率・統計的に考えれば、「研究者を目指す人たちの中で、成功する(ラボ主宰者PIとなって独立的に研究できる)期待値はかなり低い」ことが自明なのに、自分がそれに当たると考えている人が多いです。

とくにラボ主宰者(PI)になれればとりあえず、経済的には安定な残り人生が歩めるでしょうが、それまでは任期数年で職場を渡り歩くのが現在の研究者の一般的キャリアです。最悪ポスドクから抜け出せず、高齢(40歳~)になった際にポスドク先も見つからなければ無職の期間ができてしまうこともあります。

研究自体、実験結果を見るまではギャンブル的なところはあるから、人生もそんなもんだと思える人はいいのでしょうが、ちょっとやりすぎ(研究者にハイリスクな人生を歩ませすぎている)と私は感じます。人によっては、「そんなの気にしている人は研究者に向いていない!自身の成功を確信している人だけが成功するのだ!」とか言いそうですが、食べるものがなければ研究もできません。。


追記:ちょっと私には研究者のハイリスクな人生は無理だと思ったので、この記事を書いた翌年、とある国立大の医学部医学科に編入学しました。医師になって(職に困らない状態で)医学研究に携わりたいと思ったからです。

参考記事:
研究者を「半分」諦める選択の例
研究者が医学部編入を目指す意外なメリット