医師じゃない医学博士とは?【医学博士が解説】

「医師じゃない医学博士って何?」という疑問に、「医師じゃない医学博士」であるブログ主(わたし)が答えます。

「医師じゃない医学博士」は、文字通り「医学博士であるが、医師ではない人」を意味するのですが、具体的な実態(価値・メリット・立場など)があまり知られていないと思うので、解説したいと思います。(医学博士については、こちらの記事「医師と医学博士の違い」でも簡単にまとめました。)



医師じゃない医学博士はどこに存在するか

医学博士とは、「博士(医学)」の学位を持つ人に対する呼称です。通常、医学研究科の博士課程に在学し、研究成果を挙げた者に対して「博士(医学)」の称号が与えられます。医学研究科に入学するのに医師である必要はないので、世の中の医学博士には(1)医師の医学博士、(2)医師じゃない医学博士、の2通りが存在することになります

医師であってもなくても、「医学博士」の称号を持っていれば、(程度は色々だけど)医学研究を行う能力があることを意味します。学術的な研究能力についての称号なので、医療行為を行う「医師」には限定されないのです。医学研究にも種類があって、例えば患者さんの治療に関わるような「臨床研究」には医師免許が必要なものが多いですが、実験室で行われる「基礎医学研究」では、培養細胞や実験動物を対象にするので、医師免許の有無は問題になりません。多くの「医師じゃない医学博士」は、実験室で基礎医学研究に従事しています

<基礎医学研究のイメージ>

医師でない医学博士の研究パターンとしては、「疾患発症のメカニズムを分子レベルで解明する」というのが代表例として挙げられます。医師じゃない医学博士は、理学部の生物系や農学部の出身であることが多いのですが、それらの学部では人体の知識は習わないけれど、分子や細胞レベルでの生物学は詳しく学ぶことができます。なので、ミクロな観点で生命現象を見たりする点では、医師よりも彼らの方が得意だったりもするのです。

また、医師じゃない研究者は一般的に、医学部出身の医師よりも早い時期から研究に従事できることが多いです。医学部の学生は、臨床の勉強や病院実習、卒後は研修に時間を割かねばならないため、若いうちに研究にエネルギーを注ぎにくいです。この事情があるので、少なくとも若い研究者どうしを比べると、分子・細胞レベルの知識や、実験原理の理解、基礎研究の遂行能力などにおいて、「医師じゃない医学博士」の方が優っていることは多いと思います(もちろん人に依るので、あくまで「傾向として」です)。


医師じゃない医学博士のキャリア

次に「医学研究をするために、医師じゃない医学博士はどんなキャリアを築けるか」という点について書いていきます。「医学研究」の範疇なので、ここでは医学部での就職に限定して考えてみます。(生物系の研究全般や企業就活については他の記事をご覧ください。)

一般的に、大学で教員として採用されるときは、研究業績・研究分野・教育の経歴などが大学の需要とマッチしていることが大事です。ここで注意しなくてはならないのは、医師免許を持たない医学博士は学生教育の面で不利になりやすいことです。基本的に医学生は医師になるために勉強しているので、医師じゃない研究者の教員がこの需要に直接応えることは相対的に難しくなります。もちろん分子生物学や研究を教えることは学生にとって有意義だとは思いますが、医師の医学研究者と比べたら、できることがどうしても限られてしまいます。

感覚的には、「医師じゃない医学博士」のキャリア難易度は地位が上がるにつれて高まると思います。30歳前半くらいまでは、医学研究の遂行力があれば医学部に雇用されやすいですが、そこでさらに上のポジション(教授など)を目指すのは至難です。たとえ基礎系の研究室であっても、「教授は医師限定」と事実上決まっている医学部も多いです(ここら辺は大学に依ります)。

現状では「医師じゃない医学博士」が医学部で研究者を目指すのは難易度が高いと思います。日本トップの研究者であれば、研究の盛んな一部の医学部や医学系の研究所で教授になれるかもしれませんが、それ以外は教授(医師)の下で「使われる立場」で終わりがちです(それはそれでよいのかもしれませんが、もし教授になるのを目指すのであれば、他学部の生物系学科の方が見込みがあると思います)。

医学部の非医師研究者は、(医師免許を持っていないゆえ)自分にできることが限られる、という引け目を感じることがあるかもしれません。圧倒的な研究業績やオリジナリティに自信があればそんなの感じないでしょうが、私が勤めているときは何となく「アウェイ感」を感じていました。こんな状況の若い研究者には「医学部への学士編入学」はシンプルな対応策になると思うので、よかったら調べてみてください。

関連記事:
医学部編入の倍率と難易度の実態
昨今の研究医不足と医学部学士編入
医師と医学博士の違い



追記:あまり正しくないと思う「医学博士」の使い方

ところで、「医学博士」の響きは何だか凄そうなので、権威づけのためにしばしば用いられます。「医学博士が開発~」「医学博士推奨~」等々。この記事のタイトルにも、せっかくなので(医学博士が解説)と付してみました。

最近の例「医学博士が考案しました 健康まくら

どちらかというと、「医師考案~」の方が説得力があると思いますが、日本語の響きとしては「医学博士~」には確かに権威を感じます。わたしも色々考案したい(したことにしたい)ものです。