医師と医学博士の違い

医師は基本的に「医者」が意味するものと同じです。病院に行ったら診察してくれるのが医師です。医師になるには医学部医学科を卒業して医師国家試験に合格して医師免許を取得する必要があります。周知のように、医学科へ入学する際に高い学力が要求されます。

一方、医学博士は医師とは全く異なるものです。医学博士とは、「博士(医学)」の称号を持つことを意味します。「医学研究の能力を持つ」というような意味です。これは、例えば工学部で「学士(工学)」、工学研究科なら「修士(工学)」「博士(工学)」の称号が得られることと同じです。一般的には、博士になるには大学院博士課程に3, 4年在籍して研究に専念する必要があります。総じて入学はかなり簡単ですが、博士を無事取得して修了するのは難しいです。博士課程では途中で脱落(退学)する人も多いのですが、医学研究科で取得できる「博士(医学)」に限っては、取得が容易い場合も多いと言われています。

上述のように、博士(医学)の学位を取得して医学博士になるには、通常、医学研究科の博士課程に入学して医学研究を行う必要があるのですが、この「医学研究科」に進学できるのは医学部医学科出身の人に限定されていません。医学研究の種類に依りますが、一般的には、人体や疾患を理解するには生命科学が重要なので、理学部や農学部で生物学を学んだ学生が医学研究科に進学する場合もよくあります。彼らが博士の学位を取得すれば、「医師じゃない医学博士」となります。

以上まとめると、下記のように3パターンに大別できます。

(1)医師であり、かつ医学博士(医学部医学科を卒業 → 医学研究科博士課程を修了)
(2)医師(医学部医学科を卒業)
(3)医学博士(医学部医学科以外を卒業 → 医学研究科博士課程を修了)

もちろん、医師として診療行為に携われるのは(1)と(2)の人です。医学研究者としては(1)の立場が強いことが多いですが、基礎的な研究領域では、「医学研究」の範疇であっても(3)も(1)と平等に評価されます。研究者としての評価においては、当人の研究能力が最重要なので、「医学博士」「生命科学博士」「医科学博士」・・・色々ありますが、あまり関係ないです。

一般的に医学部医学科の学生は、医学研究ではなく、臨床の知識や技能を得ることに勉強時間を割かねばなりません。もし将来、基礎医学研究に従事したいなら、「医学部以外から医学研究科に進学するキャリアも悪くない」あるいは「早くに研究を本格的にスタートできるので好ましい」などと評されることもあります。

ただ、医学研究を行うためには、将来的に研究成果が臨床でどのように生かされるかという視点が大事であるし、また、人体の仕組みを詳細に習うのは医学部医学科であるので、長い目で見れば医学部医学科を卒業した医師の方が、研究の可能性を広げられる強みがあると思います。


追記:「医師ではない医学博士」について詳しく知りたい方は、こちらのページで詳しく解説しましたので、良かったら見ていってください。