基礎研究志望者に地方大をおすすめしない5つの理由

この記事では、研究者を目指す若い人には大体の場合、地方大学はお勧めできない理由をまとめたいと思います。私の研究経験は計10年くらいで、博士取得以降3つの大学(旧帝大と地方大の両方)を経験しているので、記事内容の信頼性は高いほうだと思います。基礎研究に興味のある若い人にとって参考になる内容だと思うので、ぜひ読んでみてください。(注:ただし、特に医学部の臨床系では状況は全く異なるのでご注意ください。)

概ね旧帝大は都会にあるので、この記事では「旧帝=都市、それ以外=地方」というふうにかなり単純化しています。これに当てはまらない例も多くあります。その場合、5つの理由のうち一部が当てはまったり当てはまらなかったりするので、個別の大学ごとに考えてみてください。


優秀な同級生・スタッフが身近にいることが重要

「大学名ではなく研究室を見て進学先を決めろ」という理想論は理想論としては正しいので、私の意見に憤慨する人もいるかもしれません。しかし現実問題、大学全体の研究レベルが高いところに所属するメリットが圧倒的に大きいです。その理由をこれから5つ挙げていくことにします。

特に若い人にとって重要な違いは、「周囲の人の違い」だと私は考えています。とても漠然とした表現ですが「優秀な人」が周囲に多数いるほど、自分にとってのメリットが大きいです。例えば、最先端の研究に取り組む優れた研究者がどれくらいいるか、モチベーションの高い同級生と切磋琢磨できるか否か、などなど。これらの要素が具体的にどう影響するかについては、

①自分自身の研究力アップ。
②コネクションがキャリアで有利に。

などが考えられます。

これらの2点を最も実現しやすいのは、地方大よりも旧帝大です。研究に限ったことではないですが、「人は周りの5人の平均になる」と言われたりしますね。研究でも同じで、良くも悪くも大学院の同級生や研究所内のスタッフから影響を受けて、自分の研究能力や研究姿勢が出来上がっていきます。研究を始めたての場合はなおさら、周りにモチベーションが高く優秀な人がいる環境に身を置かないと成長しにくいです

平均値をとれば、大学偏差値に相関するのは、学生だけでなく教員も同じ。特に研究業績は大学教員の採用で最も重要な要素の一つなので、学生から見れば(地方大よりは)旧帝で研究のできる教員に出会える可能性が高いです。

さらに長期的なキャリア形成の観点から言えば、優秀で成功する見込みの高い同級生や旧帝で力のある教員とつながりを持っていることが、将来の有効なコネクションになりやすいです。コネクションは、就職先(教員からの紹介)や共同研究の得やすさに繋がりますので、これがなければ博士修了後のキャリア難易度が上がります。研究者人生が詰むリスクに直結しますから、これは結構大事な要素です。


研究レベルは研究室に依るが、大学の研究レベルも重要

周りの人間の差に比べると影響は小さいかもしれませんが、周りの研究室レベルの違いもやはり重要だと思います。他の研究室の研究情報は近くにあるほうが入ってきやすいです。「情報収集なんて自分でしろ(ネットの時代だし)」と指摘する人もいそうですが、特に研究始めてまもない学生がそれをやるには限界があります。学内で開催されるシンポジウムやセミナーの数も旧帝と地方大では全然違います。

私が旧帝の研究所にいたときは、研究所内のシンポジウムでもレベルの高い研究を知ることができましたが、地方大ではそういうシンポジウムが皆無で驚きました。そもそも発表できるネタを持つ研究室が少ないのが現状です。学生としてそういう環境に身を置くのは良くないです。気を付けないと、視野が狭くなると思います。


学生支援・研究支援がより充実しているのが旧帝

学生支援については個別の大学によるところが大きいので一概には言えませんが、傾向としては旧帝など研究力(政治力)がある大学のほうが国から予算を取りやすく、それが回りまわって学生支援用のお金になったりします。共同研究施設も大学によりけりですが、傾向としては地方大では設備・支援員が弱いです。

また私は旧帝大にいたときと比べて、読める論文の数が減ってしまいました。大学が契約している出版社の数が異なっており、地方大だと予算の関係で読める論文に制限が多いです。論文コピーの郵送依頼などの方法はありますが、日常的なデメリットになります。


結局、大学のネームバリューはキャリアで重要

これも反対意見は多そうですが、実際問題として履歴書に付く大学名が重要であることを説明しておきたいと思います。

研究分野単位の狭いコミュニティ内では所属研究室(教授名)や研究スキルが評価されますが、その業界を出てしまえば個人を評価する目安は、第一に「〇〇大学卒、〇〇大で学位取得」ですアカデミア内であっても、「〇〇大学で、〇〇研究により学位取得」が一番記憶されるスペックです。Natureレベルの論文を書いていれば業界内で凄さが分かりますが、自分からアピールする機会なんて普通ないです。自己紹介するときは「〇〇大学で研究していました。研究内容・専門は〇〇でした」。そこで覚えてもらえるのは有名大学の名前。理由はそれが好印象だからです。(注:面接の際は学歴より実際のスキルですが、そもそもあなたに興味のない人は長話はなかなか聞いてくれません。)

学歴だけがすべてじゃないのは当然ですが、学歴シグナルは依然ワークはしますし、実際に平均を取れば高偏差値大学の卒業生の方が能力全般が高い傾向は存在すると思います。そう考える人は多いので、「期待値」や「初期印象」が連動して高くなります。また、レベルの高い大学に所属していたこと自体が「最先端の研究を知っている」「有力な教授陣とコネクションがある」等を示唆します。これらは大学・企業問わず、研究職に就くための有利な要素に含まれます。

田舎だと不便で低刺激な生活になりがち。

最後は少し個人差あるでしょうが、都会から離れるほど日々の研究で不便が生じます。例えば生命科学研究ではプライマー合成(DNA合成)やシーケンス解析の外注は一般的だと思いますが、都市部なら翌日朝に納品されるものが地方だと夕方や翌々日朝の納品になります。日常的な実験でこれくらい遅れてしまうと、研究自体のペースが遅れるかもしれません。

学会だって班会議だって普通は都市部で開催されるので、あんまり田舎住まいだと移動時間のロスが大きくなります。研究関連に限らず、人材が集まるのは基本的に東京もしくは大都市なので、田舎で変化の少ない環境に身を置くよりも、都会の方があらゆるチャンスに恵まれていると思います。なので、特に若い人はキャリア初期に都会にいた方が可能性が広がると思います。


以上、地方大をディスってみました。長い視点でも短い視点でも、よりよい環境で優秀な研究者が身近にいることがプラスになります。若い人が地方大で研究を始めるのは、デメリットが大きいと思います(*逆に博士取得後に地方赴任するのは上記デメリットの影響を受けにくいのであまり問題はないと思います)。

この手の話題では、研究者によるポジショントークが一般的であることにも注意してほしいです。例えば、地方大学の教員で学生を大募集している研究室であれば、多少無理しても地方大の魅力をアピールしたいはずです。私はそういう利害からは離れているので、書いた内容も比較的信頼できると思います。ぜひご自身で吟味し、必要な方は参考にしてみてください。

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