大学への就職・将来性・医療系人気 

私が退職前に考えていた内容を整理して記事にしてみました。研究者や大学職員など、大学への就職を考える人に参考になるかもしれません。

私(退職者)の個人的な視点と解釈なのでご注意ください。私は生物系の教員だったので所々それに言及しています。



基本的に、大学は斜陽産業。

有名な話ではありますが、日本の大学の先行きは明るくないと一般に考えられています。「少子化による学生減」や「交付金の減少」が原因と言われます。特に、18歳人口が(再び)減少に転じるのが2018年頃であるため、これを「2018年問題」と呼んだりもします。下のグラフのような、18歳人口の推移予想のグラフを目にする機会が最近増えたと思います。

〔図1〕18歳人口の将来推計
高等教育の将来構想に関する基礎データ(平成29年文科省資料)のデータから作成)

図の説明:18歳人口は、2010年前後から横ばいが続いていましたが、2018年頃から再び減少に転じます。2040年の18歳人口の推測値は現在の約3分の2です。

18歳人口が減る中で、入学者数の確保は、特に偏差値の低い(不人気の)私立大学にとって死活問題になっています。大学の経営戦略としては、「留学生を増やす」などがよく掲げられますが、メインの学生となる国内18歳人口が減少することはほとんど確定事項です。一般に、人口動態は未来予測の中でも信頼性は高い部類なので、今後は減少していくパイを各大学で取り合う状況がほぼ確定していると思います。こんな将来が容易に想像できるため、「大学は斜陽産業」と言われています。

偏差値の高い大学では学生数が確保できるので倒産リスクは少ないと思いますが、(国立大学であれば)国からの交付金も減らされているため、全体としてみれば規模の縮小や事業構成の変化が求められていると思います。大学経営の観点からすれば、基礎研究のような、大学の経営にプラスになりにくい部分から切っていくのは自然だと思います。

アカデミックな研究に価値を見出す人にとって、大学への就職は魅力的な面があると思いますが、キャリア形成の視点から考えると、以下の二点に注意する必要があるのではないでしょうか(多分どんな業界に就くときでも)。

(1)同じ業界で、定年までは何らかの職にありつけそうか。
(2)キャリアの途中で、別業界に転職可能か。(身に着く技能に汎用性があるか。)


困ったことに、生物系の研究者では上記どちらも厳しめだと思います。最近の大学の研究職はほとんどが数年以内の短期契約ですから、椅子取りゲームを終身雇用の職(=通常、教授の地位)に就くまで続けなければなりません。しかも、このゲームの椅子は、恐らく今後も減少します。(18歳人口や、交付金の減少ペース、博士課程進学者の推移などを参照したら色々推察できるかもしれません。関連記事:助教の年齢と将来大学院進学率の推移

さらに、概して生物系の研究能力は他分野よりも汎用性がなく、民間企業での需要が少ないです。高齢の未経験者採用は民間企業では躊躇われるので、大学から転出するハードルが高いということになります。何らかのリスクヘッジ(他の稼げる能力や資産)なしに、就職先として大学という斜陽産業に足を踏み入れるには、それなりの決意が必要だと思います。

民間企業での研究者の需要は、研究分野によって非常に異なるので、人によってキャリア形成の見通しは変わってくると思います。一般に工学分野のスペシャリストに対しては民間需要も旺盛です。また、職員として大学に就く場合は、基本的に終身雇用で、しかもジェネラリストであることが期待されているので、大学教員ほどはキャリアが茨道ではないと感じます。(でも敢えて斜陽産業に就職する利点があるのかはわかりません。)


医療系の拡大は顕著。暫くは安心かも。

全体としては大学は衰退産業だと思いますが、分野別にみると需要が高そうなのが保健系です。近年話題になった看護学科の増設や、医学部医学科の入試偏差値の上昇などはこれと関係していると思います。理系学部の学生数推移を下にグラフにしてみました。

〔図2〕分野別学生数の推移(理系のみ抜粋)
文部科学省統計要覧(平成29年版)の資料11.より作成)

図の説明:保健系の定義が色々なので気になる方は元データの参照をお願いします。医療従事者の推移については、こちらのページ(平成29年版厚生労働白書資料編)は分かりやすいです。特に看護師の増加は顕著ですが、今も人手不足のようです(なんででしょう)。医師数は政策でコントロールされているので、学生数にも大きな変化がないのだと思います。

少子化によって学生の全体数は減少傾向だけど、高齢化によって需要増が見込まれる医療系の学部には学生が集まっていると解釈できそうです。医学部の存在は学生(学費)の安定確保に貢献しますが、大学運営の観点から言うと「大学の附属病院」が直接的に重要です(下図3)。これから病院の需要が減ることは考えにくく、したがって大学経営上の病院の役割はこれから大きくなると思います。

〔図3〕大学経営の実情(収入源の各割合)
高等教育の将来構想に関する基礎データ(平成29年文科省資料)から引用したグラフ)

図の説明:上図は国立大学についてのグラフを抜粋したものです。公立大学ではこれと似た傾向ですが、私立大学では学生納付金が7割以上を占めます。興味ある方は引用元リンクを参照してください。

なんだかちょっと皮肉かもしれません。というのも、大学は、(若い)学生を日本の将来のために育成する場所だと思っていますが、経営上のお客さんは病院の、(多分高齢者が多い)患者さんになっているのが現状ですから。国立大学法人が収益性を上げるなら、病院の収益性を上げるのがよさそう。

という状況なので、あくまで傾向としては、医学部を持つ大学は就職先としても魅力的かもしれません。学生数の安定確保と、病院経営による安定収入が見込めるからです。他の学部と比較して地域社会・行政とのつながりも深いので、私立大学であっても、特に医科大学が倒産するリスクはかなり小さく、ほとんどゼロだと思います。

医師でない研究者にとっても、最近は研究医が少ないのもあって、医学部附属の研究所で職を得る難易度は高くないです。また「生化学」「生理学」といった基礎系であれば、非医師が教授になれる例もみられます。ただ、ポスドクより上の研究者は同時に「教員」であるので、「できれば医師の研究者を雇いたい」というのが医学部の本音です。なので長期的に見れば、非医師の研究者が医学部でキャリア設計するには不透明感が大きいと思います。


生物系教員だった私が、生物系の後輩に何か勧めるとしたら、「企業への早めの就職(転職)」か「医療系資格(特に医師免許)を取るために学部からやり直す」という選択肢になります。あるいは、副業か何かで「研究以外で稼げるスキルを磨いておく」なども良い戦略だと思います。研究者の道は茨道です!