分子生物学の対策2

このページでは比較的古典的な分子生物学の問題を列挙しています。医学部学士編入でも、生命科学研究科等の入試でも、このレベルの対策は求められると思います。
是非、完璧(に近い状態)にしておいてください。

自然変異を説明せよ

細胞内の反応に伴って生じるラジカル(活性酸素種)によってDNAは損傷を受ける。大まかには脱塩基、脱アミノ化(*)、メチル化、酸化、に分けられる。
*脱アミノ化とは、シトシンからウラシル、メチル化シトシンからチミン、である。(ところで、バイサルファイト処理では非メチル化シトシンのみがウラシルになる。真核生物のシトシンの4%は5位をメチル化されている。)
・自然変異に対して、紫外線や放射線による損傷で誘発変異が起こりうる。
・染色体規模の異常はM期に観察することができる。切断・転座・欠失や、数の異常がありうる。

放射線、紫外線それぞれによるDNA損傷の機序を説明せよ

・放射線では直接作用と間接作用がありうる。直接作用として、放射線は直接DNAを電離(イオン化)して変異を起こす。放射線はDNAの二本鎖切断を起こす。また、放射線は水を電離して活性酸素種を発生させる。特にヒドロキシラジカルOHは反応性が高く、ラジカル生成の連鎖反応を起こしDNAを損傷する。
・紫外線はピリミジンダイマー(とくにチミン同士のチミンダイマー)を起こす。その部分ではDNAの変形が起こるため変異の原因となる。Aとの水素結合もできない。


大腸菌での、Dam系によるミスマッチ認識を説明せよ

・DamはDNAのGATC配列のAをメチル化する酵素である。(DnaのAのMethyl化であるのでDam)
*うっかりCのメチル化と考えないように注意。ちなみにDcmがシトシンのメチル化。
・複製されたばかりではGATCはメチル化されていないため、どちらが(配列の正しいはずの)鋳型鎖であるかがわかる。
・新規に合成されてミスマッチしている塩基対部分をMut系のタンパク質が働いて修復を行う。

塩基除去修復

はじめデオキシリボース骨格はいじらず、塩基の部分だけを除く。その後ヌクレオチドが除去され、DNAポリメラーゼIとDNAリガーゼにより正しい塩基が入る。

ヌクレオチド除去修復

デオキシリボース骨格ごと、複数のヌクレオチドを切り取り修復する(チミジンダイマーなどをUvA,-Dが除去する)。エンドヌクレアーゼが切り取ったあと、DNAポリメラーゼとDNAリガーゼが働く。

相同組換え(組換え修復)

ヌクレオチド鎖が欠落してしまったときは、非相同末端結合(断片同士をつなぐ(:DNA鎖は正常だが配列は正しくない可能性がある)。あるいは、相同組換えによりDNA鎖は修復される。姉妹染色分体が存在するS期には相同組換えによる組換え修復が起こるが、相同染色体はふつう鋳型にならないので他では起こらない。組換え修復にはrecAなどが関わる。

SOS修復

とりあえず何か塩基を入れてヌクレオチド鎖を直す修復系。
<上記は大腸菌での知見が多いが、真核細胞でも存在していると考えられている。現状のところをチェックしておこう>


ラクトースオペロンを説明せよ

・原核生物における有名な転写制御システム。グルコースを含む培地からラクトースのみの培地に移すと、β-ガラクトシダーゼの活性が大きくなる。β-ガラクトシダーゼはラクトースを加水分解し、大腸菌はラクトースを栄養源として利用できるようになる。
・オペロン(転写単位)は次のようになっている(ポリシストロニックである)。
[CAP site]-[Promoter (&Operator (=binding site of reppresor))] – [lacZ] – [lacY] – [lacA]

*グルコースのみがある場合はリプレッサーがオペレーターに結合しているので転写されない。
*グルコースかつラクトース存在下ではリプレッサーは結合しておらず、弱い転写が起きているらしい
*ラクトースのみの培地では、リプレッサーが結合しておらず、さらにCAPサイトにCAPが結合して転写レベルを上げる。lacZはβ-gal遺伝子をコードしており、lacY, lacAもラクトースの代謝に関与している。(何がCAPサイトにリクルートするのだろう?)

memo:
このサイトによると、普段構成的に発現しているlacIがリプレッサーであり、この機能はラクトース自身により抑制されるらしい(かなり理に適っている)。 また、”lacZ はラクトースの分解酵素、lacY はラクトースを細胞内へ通過させるための透過酵素、lacA はラクトースを分解したときに産出するガラクトースの分解酵素をコードしている。”ということらしい。ちなみに分子生物学の実験で用いられるIPTGはこのときのラクトースと同様にリプレッサーを解除する役割。

memo:
パターンは全て理に適っている。ラクトースを加水分解するのがβ-ガラクトシダーゼ(lacZにコード)と覚えておけばよい。
リプレッサーの結合部位(プロモーター近傍)をオペレーターと呼ぶことに注意。


真核細胞での転写制御について:エンハンサー・サイレンサー・インスレーター・アクチベーター、を説明せよ

・プロモーター領域外に存在する転写調節配列がエンハンサーとサイレンサーである。cAMP応答エレメント(CRE)はエンハンサーの一例である。
・プロモーターとエンハンサーの間にインスレーターが入ると、エンハンサーの機能が失われる。
・転写を活性化する因子をアクチベーターと呼び、抑制する因子をリプレッサーと呼ぶ。(アクチベーターとリプレッサーは逆)
・多数の遺伝子が1つのシグナルで発現誘導される場合、それらの遺伝子がレギュロンを構成しているという。Hspの各種などが一例である。

<実験技術について問う問題があるが、著しく簡単なので、自明のことから書くように注意すること>


・ヒトゲノムの半数弱は反復配列である。トランスポゾン関連とみられる領域が多い。下記の点を記憶する。

マイクロサテライトを説明せよ

・短い塩基配列(-13bps)の繰り返し。ヒトゲノムの3%を占める。複数のマイクロサテライトのコピー数を見ることで個人鑑定ができる。VNTR(variable numbers of tandem repeats)とも言われる。

散在反復配列とは

・genome-wide repeatsと呼ばれ、マイクロサテライトよりも長い塩基配列(ときに1kb)の繰り返しである。ウイルス様トランスポゾン, LINE, SINEなどのレトロトランスポゾンがこのカテゴリに入る。(トランスポゾンの説明ページ
memo:
マイクロとつくので短いことは思い出そう。個人鑑定も重要(トランスポゾンみたく1kb単位だと、ざっくりした長さしかわかりにくいと思う)
それに対して、トランスポゾンはウイルスに近いから長いし、ゲノム全体に占める割合も大きくなっている。(移動もできるし)


SNPとその例を説明せよ

正常個体間に比較的頻繁にみられる多型のうち、1塩基の相違によるものをSNP (single nucleotide polymorphism)と呼ぶ。
薬物代謝に関わる酵素群であるシトクロムP450の遺伝子にはSNPが多いことが知られている。
赤緑色覚異常は男性の7%程度にみられ、(疾患よりも)多型と認識されることが多い。

memo:
パーキンソン病のことを思い出してもいいかもしれない。


・エピゲノムについては、普段当然のことと考えているから、思い出すように注意せよ。

5位がメチル化されているシトシンが見つかりやすいDNA領域を説明せよ

・脊椎動物のCpGでは(ゲノムDNAで過半数)シトシン5位がメチル化される。CpGのメチル化が多い領域をCpGアイランドという。メチル化されていないCpGアイランドはハウスキーピング遺伝子のプロモーター付近、メチル化されているCpGアイランドは転写活性が抑制されている遺伝子のプロモーターによくみられる。問題にでたら、転写調節因子のアクセス云々を書くこと。

ゲノムDNAのインプリンティングについて説明せよ

DNAインプリンティング(刷り込み)とは、エピジェネティクスな機構(シトシンメチル化が主)によって雌雄ゲノム間で異なる遺伝子発現が引き起こされる現象である。対立遺伝子が父性あるいは母性のいずれかによって発言が抑制または促進される遺伝子があり、その決定は配偶子でエピジェネティクな機構で行われる。

X染色体の不活性化について説明せよ

多くの脊椎動物でメスの性染色体はXXであるが発現するのはそのうち1本だけである(ランダムに1本選ばれる:ライオニゼーションともいう)。メスの細胞の核でみられるバー小体(Barr body)は不活性化されたX染色体である。X染色体は高度にメチル化されている。