医学・医療の入門書籍のおすすめ紹介

「教科書を買うほどじゃないけど、ちょっと学んでみたい」と思っている人にお勧めしたい医療系書籍で、主に新書サイズの薄いものを紹介していきたいと思います。

私が医学部学士編入の前年頃に、試験対策のつもりで読んだ本リストでもあるので、受験予定の方は是非チェックしてみてください。

おススメ順に、☆>◎>〇>△ とマークを付けています。参考に。


免疫学のおすすめ本

新しい自然免疫学(◎)


初心者から研究者まで幅広く読めそう。複雑なところはかなり簡略化されていますが、初心者が「自然免疫の雰囲気を学ぶ」とか、生物学の大学院生や研究者が「復習と知識の整理をする」といった目的にはマッチしそうです。内容がよくまとまっています。2010年の刊行で少し古いので、最新知見は得る目的には合わないですが、基本的に本の内容に間違いがあるわけではないので、上述のような目的で(やや軽い気持ちで)手に取ってみるには優れた本だと思います。


新しい免疫入門(☆)


レベルは少し高めで、生物学関係のバックグラウンドがある人や、あるいは専門的に学ぶつもりの学生にちょうどいいくらいと思います。高名な、阪大の審良先生らが書かれた本で、圧倒的にコスパがいいです。

個人的には、生物系の学生が厚い免疫学の教科書を買うのと合わせてこういう薄い本も読んでみるのもお勧め。教科書レベルの本になると個別の現象の記載が詳しい一方で、免疫システムの「全容」を把握しにくい場合が多い感じがしますが、免疫は「システム」なのだから、全容を把握することに注意を払うことが大事です。なので、本書のように「記載内容のレベルが高く、且つ全体像が短くまとまっている本」をかなりお勧めしたいです。


免疫が挑むがんと難病(☆)


比較的新しい本ですが、内容は数十年前の出来事から最近の内容まで含まれていて、物語形式なのでとても読みやすいです。サイエンスの深いところにはそれほど突っ込んでいませんが、免疫研究の分野での日本人研究者の貢献は大きいので、教養目的になる他、免疫学の最新潮流を知る目的にも合致する本だと思います。


分子生物のおすすめ本

細胞の中の分子生物学(〇)


分子生物学についての一般向け書籍ですが、著者が細胞内の小胞体ストレスの有名な研究者であるため、タイトルにある通り「細胞の中では何が起きているか?」に重点が置かれている感があります。高校生物の内容から始まるが、20世紀中ごろの歴史的な実験などから最近の研究まで言及されているので、初学者は楽しんで読めるかもしれないです。一方、分子生物学に関わったことがある人にとっては、「常識的すぎる」内容の割合が多めだと感じます(つまみ読みする必要がありそう)。


よくわかる分子生物学の基本としくみ(◎)


読み物としても面白い教科書です。分子生物学を習った人にとっては、ほぼすべての内容が「復習」になる内容だと思いますが、情報はコンパクトな割に豊富なので、ところどころ新しい内容もあると思います。Essential細胞生物学との重複が多いですが、説明の観点が異なったりするので、補助的に読むによいかもしれない。2000円少しなのでリーズナブルな教科書とも言えます。分子生物学の、原著が日本語の教科書の中ではかなり優れた本だと思う。


ノックアウトマウスの一生(◎)


ノックアウトマウスの「一生」というより、ノックアウトマウスの作成方法の技術論と使用(実験)方法が中心。ノックアウトマウスに限定しない、生物学でのマウス利用の全般についての情報も多い。全体としてよくまとまっていますが、200ページ以上も生物学で利用されるマウスについての話題なので、一般読者にとってはかなりマニアックな本かもしれない。しかし、平易なところから実験上の詳しいところまでしっかり説明されているので、バックグラウンドのない初学者がこれから詳しく学んでいくのに最適だと思います。例えば大学で研究室に配属された学生が、初めてマウスを扱うことになったとき、この本を読めば、かなり良いです。そんな人にお勧め。


ゲノム編集とは何か(△)


この本は研究者的にはかなりつまらない本だと思います。私は読んですぐ古本屋に売りました。筆者が研究者ではないため、分子メカニズム等の科学的な言及はなく、センセーショナルな文章ばかり。ゲノム編集についての科学的発見がいったい何なのか、具体的情報が何もない(!)。なので、とらえどころのないものについて「すごい!すごい!」というのをずっと読まされて1冊読了してしまった感じ。



脳科学のおすすめ本

つながる脳科学(◎)

理研の研究者たちが書いた、いわば理研の広告本ですが、興味深い内容盛りだくさんでした。脳科学関係の研究者たちがそれぞれの研究について、20-30ページずつくらいで概論を述べています。全体的に、さすが理研は金持ちだなー(すごい実験やるなー)と思う一方、でも面白いし税金をかける価値もありそうだなーと思わせる研究が多いと個人的に感じました。この本の内容は理研で行われている研究だけですが、理研は国内最先端の研究所ではあるので、脳科学最先端の研究がどんなのか知るには最適だと思います。


ぜんぶわかる脳の事典(〇)


170ページで「ぜんぶわかる」というタイトルが浅はかですが、イラスト豊富で初学者にもわかりやすい。医学部入学前~1年目とか、コメディカル学生向けの内容。理学部で習うような、神経科学的な内容は10ページ以下。


脳・神経のしくみ(△)


イラスト豊富ですが分かりやすいこともなく、個人的には上記の「ぜんぶわかる脳の事典」の劣化版。内容は広い範囲をカバーしているけれども、無理してテスト対策本の体裁にしている感もあります。想定読者不明。Wikipediaの方がまだ優れていると思います。


医療全般のおすすめ本

セレンディピティと近代医学(◎)


抗がん剤や抗生物質の発見などの歴史的な話題を書き連ねた、よくあるパターンの書籍ですが、話題がかなり広くて詳しいのがこの本の良いところ。ときおり題名にある「セレンディピティ」に言及されはしますが、本書の全体としては「近代医学における発見の物語」という方が適切だと思う。文庫本サイズで内容のボリュームが大きく、コスパは素晴らしいと思います。


医療にたかるな(〇)

この手の本を読んだことない人にはとてもお勧め。予備知識がある人には少し物足りないかもしれない。行き詰まる医療財政の中で権利ばかり振りかざす日本人、高齢者などについて、医療の現場の具体例を含めて判りやすく解説されています。


医者と患者のコミュニケーション論(◎)


研修医(若手医師)に向けて書いた体裁になっているので、若い医師(や医学生?)には役立ちそう。患者の立場としては、医師の本音が聞けて、微妙な気分かもしれない。個人的に筆者の文章は面白いと感じた(が、非常にクセのある文章なので読む人に依りそう)。

p102 …必要なのは患者に対する愛情や思いやりではなく、あくまでもプロとしての冷静な観察眼と判断、そして相手を説得する能力だと考える。…

p36 …、超高齢社会はそのうち、医者を「救う存在」から「殺す存在に」180度転換するのではないかと予測しているのだが、…

最後の章が良かった。


医療幻想(△)

読み物としてあまり面白くなく、よく知られた「~幻想」の説明が多いけれども、一冊にまとまっている点では良いと思います。大使館勤務の経験が非常に興味深く、例外的に興味深い内容でした。


医薬品関係のよみもの

薬づくりの真実 ―臨床から投資まで―(☆)

6000円を超える高価な本(注:今安そう)ですが、初心者が業界を知るのに勧めたい本。サイエンスとビジネスの情報がバランスが良く解説されていると感じます。理系の学生や研究者が医薬品業界の現状を知るのに適した本で、例えばアカデミア研究者と企業研究者、ビッグファーマとベンチャー、投資家、など、かなり多角的に業界を概観しています。

日本の会社や業界についての言及はほとんどなく、かろうじて製薬会社リストに日本の大手企業が載る程度。この業界での日本の存在感のなさを再確認できる内容ですが、国内の情報が欲しい場合は別の情報源が必要になります。


医薬品業界の動向とカラクリがよーくわかる本(◎)

こちらの本は日本中心の業界解説で、簡単な内容で広く浅い内容なので就活生などに最適だと思います。大手から中小の製薬企業を中心に、ドラッグストア・薬局、卸、ジェネリック業界を含めており、医薬品業界がどのように回っているか易しく学べます。注意点としては、サイエンスについての情報がほとんどないため、研究職志望であればこの本だけでは不十分なこと。業界を俯瞰したい初心者の方には一番お勧めしたい本

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