理系大学院の研究室の選び方

このページでは、研究室選択の際に普遍的に重視するべきだと考えられる要素について説明します。対象は博士進学予定者とそうでない人の両方です。またこのページでは、「研究分野選択」といった個人の志向に強くかかわることには言及しないことにします。

「博士進学(予定)者」については、こちらの記事(研究室の選び方(博士課程))にも詳しく書いているので、よかったらご覧ください。



最低限チェックしておくべきこと

最低限確認してほしいことは、そのラボに所属して学位(博士・修士・学士)を得てちゃんと卒業できる見込みがあるかどうか、です。過去の例を見る(=つまり先輩がどういう状況であるか確認する)のが一番確実です。博士であれば本人の能力不足で学位取得に至らない例も多いですが、そういう例があまりに多ければ、すなわち自分が進学してもそうなる可能性が大きいということです。

博士課程に進学予定の学生がチェックすべきなのは:

(1)D6、D5、D4、教務補佐員(等の肩書)でそのラボ出身の人、が多く在籍していないか?
(2)D3あるいはD4で、結局学位を取得できずに諦めて民間会社に就職して出て行った人、が過去に多くないか?

これら2点はぜひチェックしてください。

博士進学予定者と比べて危険度は小さいのですが、まれに修士課程で修士論文を許可してくれないというブラックラボも存在します。なので、上記の博士の場合と同様にあらかじめ下記を(念のため)確認してください:

(1)M3、M4などの学生が複数いないか(個別の事情はやむを得ないものか?)
(2)修了できずに退学・就職した学生が過去にいないか?

修士修了後に就職する予定であれば、就職活動に教授(やラボメンバー)が、研究を中断して就活することに寛容であることも確認していた方がいいでしょう。外部大学から大学院入試を受ける学生が研究室訪問して面談する際に「博士まで進学するつもりはない」と明言するのも難しい場合がありますが、少なくとも実例の有無は教授や在籍する先輩学生に確認できるはずです。入学前の学生が「博士進学したいです!」と言ったところで教授はそんなに信用しないですし、昨今の就職事情からして博士進学が学生当人にとってリスクある選択であることは大抵の教授もわかっています。よくあるパターンは、「博士進学して研究者になりたいけれど、まだ考え中です。。」という感じで濁す言い方だと思います。


また、修士課程の学生では「ラボに来なくなる」人が結構な頻度で存在します。全体としてブラックラボじゃなくても(教授の性格問題ではなくても)、直属の先輩・ポスドク・助教の性格が悪くて人間関係に学生が滅入るという例もしばしばあります。教授がブラックでなければ相談して解決できる場合もありますが、それはそれで面倒の要因なのであらかじめ避けたいリスクです。

私個人の印象では、どちらかというと本人の問題で、どうしても研究室になじめない人も多いので、単純に修士を乗り越えられない人が存在することが悪いことだとは思いません。朝から晩まで研究というのがどうしても好かない学生、自分で考えて実験・研究する能力がない(が勉強はできた)学生、これらが一定数存在することは全く不思議ではありません(そういう人は学部就職を考えるべきだと思います)。ただ、修士レベルの研究生活に耐えれない学生があまりに多ければ、研究室自体に問題がある可能性が高いので進学予定の学生は警戒したほうがいいと思います。


教授の性格にも注意

学生のキャリアのことを考えてくれるのが性格の面で理想的な教授です。性格がいくら良くても研究能力が高くなければ意味がないのですが、博士進学予定がなければ、(研究能力よりも)教授が学生自身のキャリアに配慮し、時間を割いてくれるかどうかを重視するのが理に適っています。修士課程の就活生はM1後半で就活を始めるのが一般的なスケジュールなので、率直に言って学生は研究するヒマがありません。こんな状況なので、特に博士以上が在籍している研究室であれば、修士学生の研究能力はあまり期待されていません。なので基本的にあまり関心の対象にならないのですが、とはいえ大抵は教授も悪人ではないので、学生に何らかの研究テーマ(のヒント)を与え、卒業できるようには取り計らってくれるのが普通ではあります。修士学生はそれを前もって確認できればほとんど十分だと思いますが、強いて言うなら、下記も期待したらいいかもしれません(博士課程には必須)。


大学院で経験すべきこと

教授が「学費を払って労働力を提供している」大学院生に教育的な配慮を行うことは義務だと私は思います。生物系の分野は研究に時間がかかる傾向があるので、どうしても修士課程だけだと成果が得られず(教授のお膳立てがなければ)、成果が出てきて研究生活が面白くなってくるのも博士以降になると思います。とはいえ、(成果のない修士に対しても)下記を許可してくれる教授は理想的だと思います(博士で未経験は大問題)。

(1)学会発表
データ殆どなくても発表したいといいましょう。ポスター発表なら図1個でも大丈夫。修士課程のうちに経験しておきたい。できれば口頭発表、できれば海外でのポスター発表、さらにできれば海外での口頭発表です。修士課程(博士課程でもですが)の学生にとっては、研究発表と質疑応答の練習をすることが就活対策にもなります。また、(論文と比べると価値はゼロに近いけど)一応学会発表も「研究業績」に入るので履歴書に書けるネタになります。

(2)海外経験
教授がそういうの好きで、留学生たくさんいる研究室(人がいないからやむをえず外国人を呼んでいるわけではない場合)では、学生を積極的に海外に送り出す傾向があると思います。私の博士課程時の大学には、修士課程学生にも1か月留学をやらせてあげるラボが存在しましたが、そこまでの例は多くないかもしれません。修士課程はただでさえ時間が短いので、留学するメリットもありますが所属ラボで一定の研究を行うメリットも十分大きいと考えることもできると思います。

一方、博士課程で何らかの海外経験があることは必須だと思います。生命科学系の分野には国境がほとんどありませんから、日本国内の視野で研究生活を(博士の間)終えてしまうのはかなり不十分です。英語でまともに研究の議論ができるようになっていること・それを確認する経験を積むこと、は博士取得に至る中で必須だと思います。博士進学予定の学生はあらかじめ確認しておくとよいと思います。
特に博士課程進学を考えている人を対象に、詳しめの記事も書きました-->研究室の選び方(博士)。よかったら読んでみてください。

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