理系博士の就活失敗例(反省文)

「博士は就職できない」なんてよく言われます。この記事では、博士修了見込みの学生が就活する際の注意点を、私自身の反省を中心に紹介していきたいと思います。バイオ・生物系に言及しますが、理系の博士全般が対象です。

就活の失敗例の情報はあまり聞かないと思うので、よかったら参考にしてみてください。



反省1.見込みの薄い就活に時間を費やした

基本的に、博士の就職では専門性のマッチングが大事です。特に大企業は博士も採用対象にする傾向がありますが、あくまで「専門性が企業ニーズにマッチしていたら」という条件付です。ニーズにマッチしている博士は修士よりも楽に大手企業に就職できますが、そうでなければ逆に修士よりも大変になります

大ざっぱに言うと、ニーズのある理系分野(情報系・機械系・化学系)の博士は引く手あまたである一方、生物系・バイオ系の博士は苦労しがちです。ただし、生物系博士であっても、製薬会社などではニーズにマッチすることがあり、その場合は楽に就活することができます。

私の周りで、ニーズにマッチしていた博士の例としては、

(1)ワクチン研究を行った博士は、学会発表時に企業から声を掛けられ、採用された。
(2)がん免疫を研究した博士は、エントリーシート出した段階で会社からアプローチが来て、採用された。

という例がありました。どちらの場合も、研究分野だけでなく、研究手法も企業側のニーズに一致しているようでした。また、2名とも周りの人と同様に選考されているかのように、説明会や集団面接にも参加していました(なので周囲からわかりづらいです)。私の就活時分では他にも、iPS関係の研究をやっていた何人かもスムーズに就職先が決まっていました。

会社から求められる研究分野はタイミングによって異なると考えられ、運の要素が大きいですが、いずれにしても、

早い時期に企業側から誘いや手応えがなかった場合、その後の選考プロセスも厳しい

と考えてよいと思います。

早期に企業からアプローチがない場合でも、以後採用に至る可能性はゼロではないですが、費やされる時間とかかるお金が学生にとって相当な額(地方だと数十万円)になるので、もう見込みが薄いかなと思った学生は、まず、

博士論文を確実に書けるように備え、ポスドクになるコースだけは確保しておく

ことに時間を割くのも現実的だと思います。博士の学位さえ取れれば、生物系の場合は30歳半ばまではポスドクとして(業績ほぼ不問で)働けます。しかし学位を取れなければポスドクにもなれません。

人手不足の会社であれば博士学生も採用されうると思いますが、その場合、長い目で見てポスドクの方がマシと考えられる場合も多いと思います。私の周りの生物系博士では、就活を上手くやって、就職先の会社が見つかった学生は5,6割くらいでした。残りの人は、企業就活を途中で切り上げ、主にポスドクとしてアカデミアに残りました。私自身は、数十社にエントリーシートを送り、十数社の面接を受け、すべて落ちました。引き際が遅かったので、費やしたお金がもったいなかったです。(そして後述しますが、医師になるために医学部に再入学しました)


反省2.業界研究が不十分だった

企業のニーズに自分の専門性が完全に一致していることは稀なので、「ある程度関係している」仕事を探すのが妥当なのですが、いかんせん生物系では少ない就職先に対して大学院生の数が多過ぎます。また「ある程度関係している」程度なら、企業側としてはより若い修士課程の学生を採用したいに決まっています。

就活博士の専門分野に企業ニーズがない場合(=早期に企業からの好意的反応がない場合)、会社のニーズに対する「ある程度の」専門性一致に加えて、「修士卒就職で3年目の会社員相当以上の(一般)能力」は示さなくてはなりません。会社側が考えるのはそういうことです。

会社で働いていないのに会社員と同等スキルというのは難しいと感じますが、修士の学生よりもしっかり仕事の話ができることは必須です。「私の~の技術で御社の~に~のように貢献できる。将来は~」くらいの具体性。(「~の分野の研究をやったので仕事できる」では全く不十分)。

これができるようになるには、企業説明会に行ってから業界のことを学び始めるのでは、全然間に合わないと思います。少なくとも私のキャパでは初期の面接に対応できませんでした。特に博士が就活する年度は博士論文を見据えた詰めの仕事で忙しいはずなので、博士1年目とか、早めに説明会に出て業界研究する方がいいと思います。

業界研究や会社を調べることは、自分のやる気を相手に示すことにもつながると思います。特に研究のマッチングが薄い時はこれが大事だと感じました。人手不足の業界では、20代後半なら博士を採用することもあるのだけれども、「こいつ本気でうちの会社に入る気あるのか」という疑念を持たれがちです。「何で(博士様が)ウチなんかに応募しているの?」と思われてはいけません。

といっても、まあまあこれも難しいです。博士課程の一般的な忙しさであれば、2職種以上を調査するのは難しいと思います。私の就活した頃、臨床開発の受託会社(CRO)が新卒を大量募集しており、アカリク担当者すら「バイオ系博士は研究職以外も見よ」の例として言及するくらいでしたが、残念ながらCROは若い薬学部生の就職先として確立されているように見えました。

薬学部の学生は、病院実習などで実際の業務に間近で関わった経験を持っているので、研究に携わってきたバイオ系博士よりも、CROで働く動機が強く、知識とスキルがあり、そして業界で働く知り合いの伝手も豊富です。こんな不利な戦いで、私は準備不足で玉砕していました。



大事だと思うこといくつか

「何故博士課程に進んだばっかりにがこんな苦労を・・・」と思うことが多いですが、まずへこたれないことは大事だと思いました。不確定要素が多くて嫌になりますが、特に、選択肢を複数持っていればどれかは上手くいくものだと感じます(上手くいかない人もいますが)。私の場合は、企業就活では大失敗していましたが、論文投稿と学位取得では幸運が重なって、次年度は大学で比較的良い職に就くことができました。

その後やはり長期的な見通しが立たない状況になったので、方針転換して医学部に編入学したのですが、そのときはやはり「視野を広げてキャリアを考える」のは大事だと体感しました。ポスドクで疲弊している人は多いけど、医者になったらもっと楽に研究を仕事にできるので、医学部編入は悪くない選択肢だと思います。

他には、「需要と供給をしっかり把握すること」はやはり重要だと思っています。生物系が就職で苦労するのは、世の中のニーズ(需要)がないのに生物系大学院生(供給)が多過ぎるからです。一方、最近研究者になる医師が激減しているため、研究経験がある人に医師になってほしいという需要があります。それゆえ、私の場合は結構楽に編入学することができました。

反省3.需要と供給の関係はキャリア設計の上でやはり重要だった。


Links(12/6追記)
☆当記事は「アカリクアドベントカレンダー2018」に掲載されました。


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