インパクトファクターの重要性
インパクトファクター(impact factor)は研究者キャリアを積む上で大事です。しかし、大学院生にとっての重要度はそれほど高くないと思います。研究スタート時で業績がない場合は、インパクトファクターの数値を気にするよりは先ずとにかく「査読つき論文に筆頭著者として論文を掲載する」ことが何より大事だからです。
旧帝大くらいレベルの大学院に在籍していると、大学院生はインパクトファクター至上主義を吹き込まれがちだと思います。その場合、インパクトが大事なのは、学生にとってではなく、その学生を指導している指導教員にとってインパクトファクターが大事であるということにすぎません。
旧帝大によくあるような、大御所の先生とかの大規模ラボでは、一人の教授の下に何人ものポスドクや大学院生が抱えられています。ラボの運営者である教授と立場としては、部下(ポスドクや大学院生)のひとりひとりが中長期間の間に1報でもNatureかその姉妹紙クラスの業績をあげてくれれば、全体としては上手くラボが回って好ましいんです。
逆にポスドクや学生が中低インパクトの論文を短期間で出すということになると、大規模ラボでは(期間あたりの)研究プロジェクトが増えすぎて逆に非効率になります。しかも大御所の先生たちは高インパクトの業績によって高額研究費を得てラボ運営しているのですから、低インパクトの研究に時間を割くモチベーションがないです。
そんなわけで学生はラボに入った当初からインパクトファクターの大切さを教え込まれるのが普通です。しかし、研究者を目指す学生個人としては、早く博士学位を取得することが最優先課題です。低インパクトであっても、学位の認定基準を満たす査読付きの雑誌に論文を発表できたらそれでPh.Dになって、初めて研究者キャリアがスタートします。Ph.D以前の、(研究者としては未熟であるとされる)大学院時代にNature等の高インパクトジャーナルに論文発表できたところで、だれもそれを学生の業績だとは思いません。それは教授の業績になるだけです(!)
教授がNatureクラスで勝負できると考えたインパクトある研究プロジェクトを与えられた大学院生やポスドクは、おそらく研究室の他のテーマよりも積極的な支援を受けられる点では恵まれています。高価な試薬購入もなんなり許可されるし、テクニシャンが教授に指示されて実験を手伝ってくれたりします。また他のメンバーよりも頻繁にディスカッションの相手をしてもらえるから、自分の成長にもなると思います。
ただ、そのプロジェクトを進めている大学院生の博士学位取得は遅くなりがち、というデメリットもあります。教授がそのプロジェクトに愛着を持ち、そしたら往々にしてそのプロジェクトを過大評価しているので、無理してハイクラスのジャーナルに投稿させようとして譲りません。こうなると大学院生の学位取得は遅れやすいです。
不運な学生は、Natureクラスの雑誌に投稿&リジェクトされている間に競合研究者に同等の内容の研究を発表されてしまいます。そうなると既に持っているデータの価値が一気に下がってしまうので、教授が諦めて低インパクトの雑誌に投稿することを許可してくれればラッキーなのですが、たいていは(学生よりも)自分の名声は大事ですから、「データをもっと集めて再度Natureに出そう」と言います。
オーバードクターしてしまえば、新卒カードを失って企業就活も難しくなるし、かつ学位取得できていないのであれば他のラボに移ることも困難です。ほとんど教授に人生を預けたような状態になってしまいます。かなりリスクの高い状態です。
教授は多人数のプロジェクトを管理することでリスクを分散しているにも関わらず、ハイリスクハイリターンのプロジェクトを与えられた学生の側にはリスクヘッジがありません。たぶん、ハイリスクなプロジェクトを行って成功した研究者が高頻度で偉い先生になっているでしょうから、学生にリスクを負わせることには全く悪気がないです。学生が何年もオーバードクターしていても平然としていたりします。
大学院生は教授肝いりのハイリスクなプロジェクトを進めるほかに、低リスクで学位取得がより確実と思われるテーマも考えて同時並行した方がいいです。
インパクトファクターの数値の解釈については、
関連記事:インパクトファクター数値の目安
も書いてみました。よかったらどうぞ。