医学部受験と医師需給推計を考える

先日こういうツイートしました。

実は、厚労省が発表する医師需給というのは結構外れる予測なのですが、今後の全体的な傾向としては、「現在と比べて需要が減って供給過剰になる可能性がある」と考えるのは間違っていないと思います。

医師の数は毎年全国の医学部から一定数供給されて増える一方、人口減少に伴い医師需要は減っていきます。昔と比較して現在の医学部数が多いため、リタイアする高齢医師よりも医師供給ペースが速く、供給過剰になると考えられているのです。

より正確に言えば、医師不足よりも医師の地域偏在、診療科偏在が問題と言うべきかもしれません。また、技術革新などによって医師の仕事が減ったり増えたりする可能性も十分考えられます。

ただ、ここではそのような「予測不可能なこと」はあまり考えないことにして、私が医学部を受験した当時に考えた内容を以下の順番で紹介したいと思います。



医師需要が完全になくなる時代はこない。

仕事内容から考えて、医師需要がゼロになることはないはずです。なぜなら、人が生きている限り、病気になって死ぬことは避けられないからです。どこかの時点で、医療の介入(医師の仕事)が求められると思います。もし仮に、人工知能が病気の診断するようになっても、患者個人の背景や価値観まで考えて治療を行うことができる、医師の代替には当分ならないと思います(それが実現するのは、人工知能が人間そのものになる時だと思います)。

また、「健康に生きたい」というのは人間にとってかなり根本的な願望です。将来の医師の働き方がどんなに変わったとしても、その願望に応えようとする、医療の専門家の需要がなくなることはないはずです。お金がある人も(ない人も!)、それにかけられるだけのお金をかけます。生きたいというのは、やはり根本的だと思うのです。

まとめると、
・医師の役割は今後変わっていく可能性があるが、不老不死が実現したり、AIが人間と区別できなくなるような、”人間の定義自体の変化”が起きない限り、医師需要はゼロになり得ない。

さらに、
・医療の知識やスキルは、人間の本質的願望に応えるものであるゆえに、今後も求められ続ける。

以上のことは、ほぼ間違いないと私は思っています。


下位私立医大やスキルなし高齢医師は困難度大に。

(1) 国家試験の合格率がいずれ抑制される可能性

医師需要がゼロにならないと言っても、需給バランスは今後変化していく可能性が高いです。現状、人口減少中なのに医師が増えているのですから、相対的な医師需要が減っていくと考えるのは妥当だと思います。その状況で、医師需給バランスを保つために医学部を閉鎖するなんてのは利害関係的に難しいため、政策実行者側がもっとも行いやすいのは

医師国家試験の合格率を抑制する

だと思います。

これを考えるとき、増えすぎて問題になった歯科医師の国家試験合格率は参考になるかもしれません。

歯科医師国家試験(ウィキペディア)」のページによると、2019年度の歯科医師試験の合格率は63.7%。特に私立の歯学部では合格率が50%を下回っている大学もあり、状況はまあまあ悲惨だと思います。

医師の国家試験の場合も、難易度を高められたときに困るのは私立(低偏差値)の医学部だと思います。私立の下位医学部では現在でも、見かけ上の国試合格率を高めるために成績不十分な学生に(卒業資格を与えないことで)国試を受けさせない仕組みにしていますが、今後その傾向に拍車がかかるかもしれません。


(2) 高齢の新卒医師は不遇を被る可能性

全体的な新卒医師供給数が増加したとき、別の要素としては、医師免許取得時点での年齢もハンデになりうると思います。現在の医師不足の状況を考えるとイメージしづらいですが、一般に日本で未熟な新社会人が職に採用されるときに重要なファクターは年齢と学歴です。再受験生や編入生にとって、就職先を見つけるハードルが今よりは増加するかもしれません。

国立の上位医学部で成績を上位キープし、若い医学生にないスキルなり経験を有していたら問題ないと思いますが、単なる高齢新卒医学生の場合、今後キャリアスタート時の難易度が高まっていく可能性があると思います。自分がまだ逃げ切れる世代であることを確認した上で、私は退職して医学部に編入学する決心をしました。


以上、やや厳しめですが、私が受験当時に考えていたことをまとめてみました。参考になればうれしいです。