分子生物学の対策5(インスリンなど)

血糖値の制御(肝臓・骨格筋)は、学医学部士編入対策として絶対に覚えないといけないところです。別ページでグルカゴンの経路についても説明しています。「グルカゴン–> PKA—> グリコーゲンホスホリラーゼ1–> 血糖値上昇」という風に、細胞内分子経路と合わせて統合的に覚えなくてはいけません。

インスリンの分泌について説明せよ

(1) グルコースはグルコーストランスポーター(GLUT)を介してβ細胞に入り、ここで代謝によりATPが産生される。
(2) 細胞質内のATP濃度が上がると、ATP感受性のK+チャネルが閉じる。K+チャネルが閉じると細胞質内にK+がたまる。
(チャネルが閉じて濃度が変わるのは一見変だが、トランスポーターなどでK+は常時取り込まれているはずなのでそれが影響か。)
(3) β細胞が脱分極する
(4) 脱分極すると細胞膜上の電位依存性Caチャネルが開く。
(5) Ca流入により、インスリンのエキソサイトーシスが起こる(細胞外へ分泌される)。

・記憶すべきは(グルコース–>)「ATP感受性Kチャネル」という言葉。そしてCaと(インスリンの)エキソサイトーシス。


インスリンの作用について説明せよ

・インスリンの受容体はチロシンキナーゼ連結型(αx2+βx2の4量体)。インスリンの結合によりリン酸化カスケード。
(1) インスリンの結合により受容体のβサブユニットが自己リン酸化。
(2) インスリン受容体がIRSファミリータンパク質をリン酸化する(インスリン受容体キナーゼの基質をIRS,insulin receptor substrateという)。
*IRSのリン酸化部位(PTB domain, phosphotyrosine-binding domain)は相手タンパク質のSHドメインの結合サイトになり、Grb2, PI3Kといった下流にシグナルを伝える。

(4) GLUT遺伝子の転写促進と細胞膜への移動促進。
(5) グルコース取り込みが上昇し、血中濃度(血糖値)が下がる(受動輸送である)。
*グルコーストランスポーターであるGLUTは受動輸送を行うことに注意(参考,wikipedia)。小腸(や腎臓の)上皮細胞でグルコース取り込みを行うトランスポーターであるSGLTは、Na+勾配を利用した二次能動輸の形式である。

・GLUT: 受動輸送
・SGLT: 二次能動輸送(“Sodium-dependent glucose transporter”)



・ここで、各論的であるがLDLについて。この部分は、生化学・(肝臓の)生理学と併せて記憶すること。

LDLからのコレステロール取り込みについて(細胞内での過程を)説明せよ

・LDLの主な働きは「組織にコレステロールを届けること」であり、HDLの主な働きは「組織のコレステロールを肝臓へ回収すること」である。したがって、LDLがいわゆる悪玉と呼ばれる方。その他のリポタンパク質も覚えること。

(1) LDL受容体にLDLが結合し、エンドサイトーシスされる。このときLDL内のapoB100などが重要。
(2) 被覆小胞(ひふくしょうほう)が初期エンドソームと融合する。
*エンドソーム内が酸性なので、LDL受容体の構造が変化し、受容体からLDLが解離する(LDL受容体は再利用される)。
(3) 初期エンドソームから後期エンドソームへの成熟を経てLDLはリソソームに輸送される。
(4) リソソームでLDLが分解され、遊離したコレステロールは膜成分やステロイドの原料になる。


骨格筋の収縮機序を説明せよ

アセチルコリンの機能の例として記憶する。この項目は細胞骨格とともに統合的に記憶するべきである。

(1) 運動神経の軸索の末端からアセチルコリンが放出される。
(2) 骨格筋終板にある、ニコチン型アセチルコリン受容体(=イオンチャネル)にアセチルコリンが結合する。
(3) アセチルコリンの結合によりこのチャネルが開口すると、Na+, K+, Ca2+などの(選択性?)イオンの透過性が増し、細胞が脱分極して活動電位が発生する。
(4) 脱分極により筋小胞体のカルシウムチャネル(リアノジン受容体)が開き、流入したカルシウムがトロポニンに結合することでトロポミオシンによる阻害を解除する。
(5) トロポミオシンは通常時ミオシンとアクチンの相互作用を抑制しているが、これがカルシウムの結合により解除されることで筋肉が収縮する。

*アセチルコリン受容体には2種類ある。ニコチン型とムスカリン型である。ムスカリン型アセチルコリン受容体はGPCRであり、結合するGタンパク質により脱分極を誘導または抑制にはたらく。中枢・末梢・平滑筋にも存在している。
*サルコメアのイラストと機能を対応させて記憶しておくこと(生理学の初心者向けの本で十分)。