医学研究者になるための学部選択(医学科とそれ以外の比較)

この記事では「基礎医学の研究者」になるための方法を説明していきます。特に医学部志望者や医学科生向けの記事になっています。

「基礎医学研究」というのは、実験室で培養細胞や実験動物を使って実験するのが典型的で、「病気の原因を分子レベルで解明し、将来の治療法を開発する」ことを目的に掲げていることが多いです。

この種類の研究を行っているのは、大きく分けて2種類いて、

①医師
②医師じゃない生物系出身者、

です。

①の場合、出身大学は医学部医学科に限りますが、一方②の場合は比較的多様で、理学部・農学部・工学部・医学科以外の医療系学科、など多くのパターンがあります。①と②では、キャリアや、働き方、仕事内容が大きく異なっているので、まずは①と②に大別して考えるのが便利です。

「医学科以外の医療系学科」出身の医学研究者も多いですが、②とは少し異なるところもあるので、他の記事で解説してみたいと思います。



医学科から医学研究に進む場合

医学部の特徴は卒業までに6年間かかることで、その間、病院実習やたくさんの医学知識を学ぶ必要があります。医学部医学科は「医師免許取得のための学校」という要素が強く、学部の段階では研究の要素が少ないです。実際、ほとんどの医学生は研究者でなく、臨床医(病院で診療に関わる医師)を目指します。そんな環境で研究者を志す学生がいれば、貴重な人材として歓迎されるというメリットもありますが、他学部と比べて勉強が大変だし、病院実習もあるので、なかなか研究に取り組む時間はありません。本人にとってはハードです。

さらに、医学部を卒業して国家試験に合格すれば医師免許は取得できますが、この段階ではまだまだ医師として一人前とみなされません。まずは研修医としてのトレーニングが必要です。したがって、研究志向の強い医学生や若い医師がよく悩むのは、「キャリアのどのタイミングで研究を始めるか」とか、「働き方として、研究と臨床のバランスをどうするか」ということになります。

具体的な進路としては、医学科を卒業した後、2年間の研修医の後に大学院(医学研究科博士課程)に入って研究を始める人が多いです。ただし、必ずしも決まっているわけではありません。早く研究を始めたい人は、研修医を行わずに大学院に入ります。しかし、それでも医師以外の研究者と比較して、研究を始める年齢が遅いです。

このように、医学科から医学研究者を目指す際のデメリットとして「研究だけに取り組めない。研究スタートが遅れてしまう」ということがよく挙げられます。ただ、考え方次第でこれはメリットにもなるので、続けて説明していきます。


医師の医学研究者のつよみ

医学科出身者が研究者になるときの強みとして、少なくとも以下の4つは挙げられると思います。

1)人体を詳細に学ぶのは医学部のみである。
2)臨床に根差した医学研究ができる。
3)臨床の検体を得やすい。
4)成果が出なくても失職しない。

1から4を説明していきます。

1)まず「人体」をしっかり学べるのは基本的に医学部医学科のみです。特に人体の構造を、独学で(実際のご献体なしに)学ぶのはかなり難しいと思います。分子レベルから人体レベルまでの視点を持てるのは医師の強みです。「分子生物学」も必修科目になっており、他学部の生物学講義よりも「医学とのつながりを想定した分子生物学」を学べます。「医学研究者」を志すなら医学部に入るのが、学習内容から考えれば自然です。

2)第二に、臨床での必要性に根差した医学研究を行いやすいのも医師の強みです。医学部で行う研究は、最終的には医学(医療)への貢献を目指す研究です。臨床の知識なく、医学研究を行うにはハードルがあると思います。実際の患者を見た(診た)ことがないのに、その病気の発症メカニズムの研究ができるでしょうか。できると思いますが、やはり不利だと思います。

3)第三に、研究手段の面で医師の方が有利です。医学研究を行う際には、実験データが何のデータ(ヒト・マウス・培養細胞など)であるかが重要になります。例えば、ある疾患で特定遺伝子の重要性を示したいとき、培養細胞やマウス実験だけでは不十分です。実際の患者さんで、その特定遺伝子がなんらかの変化を受けていることを示す必要があります。そのための実験に用いるサンプル(血液など)を、一番得やすいのはやはり医師です。

4)第四に、キャリア設計上も医師の研究者が有利です。医師以外の研究者には基本的に、研究が上手くいかなかっときの代替となる職がありません。研究にはそもそも「当たるか当たらないか分からないものへの挑戦」という運の要素がありますが、研究に失敗した人の行き先が「路頭に迷う」であれば、あまりリスクの高い研究はできません。その点、医師免許保持者は失職リスクがないので、挑戦的な研究も含め、比較的自由に研究を行うことができます。


医学科から医学研究者を目指す際のデメリットとして「研究だけに取り組めない。研究スタートが遅れてしまう」ということを上述しましたが、ここで挙げたような強みが医師の研究者にはあり、総合的に考えれば、明らかに医学部医学科出身の医師の研究者の方が有利だと私は思います。

次ページで「医師以外の研究者」について書いていく予定なので、医学科の学生や(医師の)大学院生は、どのように自分の強みを活かせるかを考えるといいかもしれません。

<つづく>