博士号とは?修士、学士との違いは何?メリットや難易度は?【博士が解説】
私も一応持っています「博士号」。一般には聞きなれない言葉だと思います。
この記事では「博士号」について、修士号や学士号との違いなど、基本的なところから解説していきたいと思います。
博士号と修士号の違い、メリットとデメリットの実情は?
大学を卒業して得られるのが、「学士」の称号、もしくは「学士号」ですが、それと同じように、大学院を修了して得られるのが「修士号」(修士課程修了の場合)や「博士号」(博士課程修了の場合)です。名刺などに正しく表記する際は「博士(医学)」とか「学士(理学)」というふうに専攻した分野をカッコ内に示します。博士は「はくし」と呼ばれることが多いです。また、英語の場合は博士=ドクター(doctor)でも良いのですが、医師もdoctorと呼ばれますし、意味を区別するためには”Ph.D”と言うのが普通です。(なぜPh.Dと呼ばれるかについては歴史的理由があるので、ウィキペディアなどご覧ください)。
大学入学から博士号(Ph.D)取得までの流れを表すと下の図のようになります。図の右側に示すように、大学が医学部などで6年制の場合は、修士課程(「博士前期課程」とも呼ばれる)をスキップして博士課程に進学できます。博士課程は「博士論文」を書くことによって修了でき、そうすることにより「博士(Ph.D)」の肩書を得られるのです。博士号(Ph.D)の取得は、研究者キャリアのスタート地点に立った、というような意味合いがあります。
博士課程は学歴の中では最高峰ということになります。日本では「高学歴=高偏差値大学の卒業生」という考えが一般的ですが、本来、学歴と偏差値は関係ありません。上の図を見たらわかるように、学歴は高い順に、博士>修士>学士>高卒>中卒、ということになります。
理系の場合は、「大学院は修士課程まで(博士には進学せず就活)」というパターンが多数派ではあるので、単に「大学院修了」と名乗っている場合は修士修了の意味だったりもします。以下のような、厳密でない表現が用いられることも多いので、注意が必要です。
・「大学院修了」=修士課程修了の意味で用いられることもある。
・「学位取得」=博士課程修了(博士号取得、Ph.D取得)の意味で用いられることも多い。
修士・博士に対して持たれる認識としては、分野にもよりますが以下のような認識が多いです。
・修士号=特定分野の研究を何となく知っている。
・博士号=特定分野の研究を極めた証。自律的な研究能力がある。
理系では大体このような感じです。
特に生命科学では博士号取得者の比率が多いので、より強く「修士修了程度では研究を解ったことにはならない」という風潮は感じます。ただし、民間企業に就活する際には逆に、修士課程の学生がまだ若くて未熟(専門に凝り固まってはいない)、入社後に企業色に染まってくれやすいため、専門性を極めた博士課程の学生よりも会社にとって印象が良かったりします。一般に、博士課程修了者の就職難の方が著しいです。
ざっくりとメリット、デメリットを比較すると、
・修士課程=研究の触りは経験できるコース。民間企業から歓迎されるので就活しやすい。
・博士課程=自律的な研究者になるコース。専門性を極めるので分野によっては就職難のリスクあり。
という感じです。
博士難易度は修士よりずっと高い。ただし分野による
次に博士号、修士号の取得難易度を比較してみましょう。
修士号の取得には修士論文(修論)、博士号の取得のためには博士論文(博論)を書き上げる必要があり、一般には博士号の方が難易度が高いです。
大雑把にそれぞれの難易度を表すと、
・修士号=普通にやれば簡単に取得。学士(大卒)と大差なし。
・博士号=難しい(分野により異なるが、文系博士号>理系博士号>医学系博士号)
博士号の取得は難しいことが多いですが、所属研究室や指導教官によって変わってくるので一概には言えず、医学系では易しい傾向もあります。医師教員では家父長的な教員が多く、よく言えば指導が丁寧なことも一因かもしれません。
博士論文自体は、修士論文と同じように日本語で書いて大学に提出するパターンが多いと思いますが、実際はそれを行うための必須要件に「英語論文を査読ありの国際学術雑誌に〇〇本以上掲載される」というのが含まれていて、むしろそれが博士号取得のための高いハードルになります。博士課程の場合は、決められた3,4年の間に論文(学術雑誌に投稿するほう)を書き上げることができず、5年6年と博士課程の標準期間をオーバーしてしまう人も多数います。一方、修士課程をオーバーする人はほとんどいません。
博士課程に在籍しているという立場は、一応「学生」であるので教官から指導を受けられ、ある程度守られた立場と考えることができます。しかし同時に「自律的に研究するための訓練中」でもあるので主体的に、自分の責任で研究を進めるべき立場です。このあたりのバランスが、状況や指導教官の考え方によって非常に異なってくる点が、博士号の難易度を一般化できない大きな原因です。家父長的な教授の研究室に入ると、研究計画も既にセットアップされ、苦労せず研究が進められる一方、放任型の研究室に入ると全く指導を受けられず、何年経っても博士号を取得できなくて最終的に大学を去る、なんて事態になりえます。
博士課程を修士課程と比較すると、次の2つのポイントで、後の人生に与える影響が大きいです。
・専門を極めるので就職先が狭まってしまう。
・博士号を必ずしも取得できるとは限らず、何年もオーバーしてしまう人もいる。
研究者になりたい人にとって、博士号は意味のある資格ですが、客観的な損得勘定で考えると、就職を後回しにして学生の状態を続けるメリットは必ずしも大きくありません。
以上、博士号を修士号と比較してみました。
本ブログは、博士号を取得した後、大学教員になった人のブログです(現在は退職)。研究関連のキャリアに進みたい人にとって参考になると思うので、他の記事もぜひご覧ください。