CAR-Tの動向, KiteとJuno
サンタモニカのKite Pharma社は、患者自身のT細胞を用いたがん治療の実現を目指してきた会社です。特にGVHD(移植細胞による患者細胞への攻撃)が避けられるため、患者自身の幹細胞から治療用のCAR-T細胞を作成する戦略をとっていました。しかし発表によると、セルライン化された多能性幹細胞をCAR-Tのための細胞作製に用いる研究も行われているようです。今回Kite社がUCLAから導入した技術は、体外での細胞維持に関わる技術であり、この技術が確立されれば、治療に用いられる細胞供給が飛躍的に簡単になると言われています。(2016,7 Kite nabs engineered allogeneic T-cell tech from UCLAより)
Kite社の技術
Kite Pharma社のウェブサイトを見ると、CAR (Chimeric Antigen Receptor)だけでなく、TCR (T-cell Receptor)を利用したがん治療も開発中であるようです。がん細胞に発現するMAGE A3/A6、HPV-E6,E7がTCRを利用する治療の標的となりますが、このうちE6とE7はHPV(ヒトパピローマウイルス)が持っているがんタンパク質であり、感染細胞がん化に関与しているとされるものです。CARの場合と異なり、TCRによる標的はペプチドであり、しかもそれがMHC分子上に提示された形をとっていなくてはなりません。
ウェブサイトでの解説によると、TCR/CARの場合ともに、手順としては
(1)患者から白血球を分離し、
(2)それらを活性化させ(ることで数を増やし)、
(3)そしてCARあるいはTCRを細胞に導入し、
(4)さらに増殖させた後に患者の血液中に再投与する、
というプロセスのようです。
日本の会社であれば、メディネット社や、テラ社がこれに近い技術でビジネスをしています。免疫細胞(NK細胞やT細胞)を体外で活性化させて患者に戻してがんを攻撃させるという戦略は昔から試みられていますが、まだ確立された治療法はありません。免疫学の進展や、ゲノム編集技術の向上でCAR/TCRの改良が進むと、いずれブレークスルーがあるかもしれません。
Juno社
なお、CAR-Tの業界で先陣を切るJuno Therapeutics社もCAR/TCR技術によるがん治療開発を進めています。Junoは、JCAR015(CD19を標的とするCAR-T)のフェーズII試験を進めており、Kite社と競っています。(2016,7 FDA clear Juno to resume CAR-T trial )
Juno社ではCARの標的分子として、血液がんに発現するCD19,CD22のほか、WT-1やL1-CAM、MUC-16/IL12など固形がんのタンパク質を標的とする細胞療法(TCR/CAR-T)の研究開発が進められているようです。