分子生物学の対策4(がんとシグナルなど)

シグナル経路にはなじみのある研究者(大学院生)であれば、比較的苦にならないと思います。しかし、系統だてて覚えることが大事です。


細胞死の種類をあげ、そのうちネクローシスの例を説明せよ

・ネクローシスとアポトーシス、角化(cornification, 表皮のみ)、オートファジーを伴う細胞死、などがある。
・角化では、細胞小器官が消失し、脂質を貯蔵した顆粒が出現する。プロテアーゼで細胞は分解される。

ネクローシス
・細胞質が腫大し、細胞膜が壊れる。細胞小器官も腫大、中程度の染色体凝集がみられる。
・虚血に依るネクローシスが例としてあげられる。酸素の欠乏によりATP不足が起き、Na/K-ATPaseとCaポンプが障害を受ける。これらの帰結は、細胞内の浸透圧上昇と、Ca依存ホスホリパーゼの活性化等による膜破壊である。

memo:
念のため、虚血によるネクローシスは記述できるようにするのがよさそう。


アポトーシスを2つのタイプに分けて説明せよ

Keywords:
アポプトソーム、カスパーゼ3,7,8,9、多量体化。

At a glance:
(1)Cytochrom c > Apf-1 > Caspase 9
(2)FasL/Fas > FADD > Caspase 8
(Fasの方がカスパーゼ8なのはこちら(京大米原研)。開始カスパーゼ8,9の下流に実行カスパーゼである3,7がある。)

・それぞれ、多量体化をきっかけとするカスパーゼの活性化反応である。


・内因性経路では、内部環境の異常によりミトコンドリアの膜透過性が(Bax, Bcl2などにより)変化し、それによりシトクロムCが放出される。アダプタータンパク質であるApaf-1はシトクロムcを結合すると、カスパーゼ9と結合して多量体化させ、これにより下流カスケードが進む。

・Fas, TNFR, TRAILRなどが代表的な細胞死受容体で、リガンドの結合が外因性経路を引き起こす。もっとも理解されているのはFasLからの経路。FasLの結合によりFasが三量体を形成する。アダプタータンパク質であるFADDがFasとカスパーゼ8を結合し、カスパーゼの多量体化によって下流の反応を増幅する。

・内因性アポトーシスの、シトクロムc/Apaf-1/Caspase9の複合体(七量体形成している)を、「アポプトソーム」と呼ぶ。
・外因性アポトーシスの、Fas/FADD/Caspase 8の複合体を、「DISC(Death-inducing signaling complex)」と呼ぶ。FADDとの結合はFasのDeath domainを介する。



UVによる発がんを説明せよ

Keywords:
二重らせんの歪み、メラニン、UVエンドヌクレアーゼ、DNAリガーゼ。

・紫外線は光化学反応によりDNA損傷を起こす。代表的なのは隣接するチミジン間のチミジンダイマーである。二重らせん構造が歪み、相補的塩基対の形成を障害することが変異遺伝子が生じる原因となる。表面色素のメラニンは紫外線を吸収し防護に働く。
・まずUVエンドヌクレーアゼによる損傷部位の切断が起こり、次いでDNA polymeraseとDNA ligaseによる修復が行われる。


がん細胞の性質を接着分子の観点から説明せよ

・がん細胞どうしの接着は弱く、発生母地から逸脱して血管に入りうる。血管に入ったがん細胞は異種細胞間の細胞接着分子を利用して血管内皮細胞に付着し、そこから組織に浸潤することがある。この際、MMPなどの基質分解酵素を分泌して細胞外マトリックスを破壊しながら浸潤する。その環境で増殖すると血行性転移が成立することになる。

<MMP: Zn2+(またはCa2+)を活性中心にもつ、マトリックスメタロプロテアーゼである。MMP1~28などがある。>



細胞外からのシグナルを受ける機序についてリガンドの観点から2種あげて説明せよ

・細胞膜を通過して、核内受容体あるいは細胞質内の受容体に結合する疎水性のリガンドと、細胞膜上の受容体に結合するペプチドやタンパク質に大別される。細胞膜を通過するリガンドとして代表的なのはステロイドホルモンである(後述)。細胞膜上の受容体は3つに大別され、イオンチャネル連結型、Gタンパク質連結型、酵素連結型、である。
*GPCRに結合する三量体Gタンパク質のαサブユニットがGTPaseであり、リガンドの結合によりGTP型(活性型)となる遊離する。

ステロイドホルモン、甲状腺ホルモン、(リガンドとしての)一酸化窒素、の作用機序を説明せよ

ステロイドホルモン
・ステロイドホルモンの受容体は細胞質内でHspと結合して存在するが、ステロイドホルモンを結合するとHspを解離して核に移行する(このとき、活性型の二量体を形成している)。
・二量体化した受容体は転写調節因子として、DNAの特定配列に結合して転写を活性または促進する。

甲状腺ホルモン
・甲状腺ホルモン受容体は普段はHDACと結合して転写抑制に働いているが、甲状腺ホルモンの結合により転写が開始される(HATなどが関わる)。
*レチノイン酸、ビタミンD、甲状腺ホルモン、ステロイドホルモンなどは「細胞質/核内受容体スーパーファミリー」を形成している。

memo:
HspとHDACを同列にして理解しても良い。ただし、甲状腺ホルモンとHDAC云々の話はそれほど有名ではないと思われる。一応情報・浜松医大のページ。Hspが関係するのは特定タイプの受容体(参考wikipedia)。

一酸化窒素の作用
・短時間で合成され、不安定な分子であることから、素早い応答の制御に適している。例えば、NOは血管内皮細胞により産生され、血管平滑筋を弛緩させる。平滑筋内でグアニル酸シクラーゼを活性化してcGMP精製を誘導する。狭心症にニトログリセリンが有効な理由である。

アデニル酸シクラーゼの経路を説明せよ

・ATPからcAMPをつくる酵素がアデニル酸シクラーゼである。Gタンパク質のαサブユニットがアデニル酸シクラーゼを活性化する。cAMPはPKAを活性化して、シグナルが伝わる。この経路のリガンドとしてはグルカゴンやエピネフリン(アドレナリン)などがある。

例:
グルカゴン(低血糖時に膵臓から分泌されるペプチドホルモン(wiki
> GPCR > アデニル酸シクラーゼ > cAMP / PKA >リン酸化カスケード
> グリコーゲンホスホリラーゼ1の活性化 > グリコーゲンの分解・血糖値上昇

*エピネフリン(アドレナリン、副腎髄質から分泌される)も同様の作用機序で肝細胞に作用する。

交感神経が興奮した状態、すなわち「闘争か逃走か (fight-or-flight)」のホルモンと呼ばれる。ストレス応答を、全身の器官に引き起こす。(血糖値は上昇する)

*ホスホリパーゼCもGタンパク質により活性化される場合がある(別記事画像)←復習しておくこと。


Others
(1)チロシンキナーゼ連結型受容体について覚えること:
酵素連結型=チロシンキナーゼまたはセリン/スレオニンキナーゼ連結型の受容体である(リガンドがサイトカインの場合は、受容体自身が酵素ではない。)。この中で、チロシンキナーゼ連結型の経路としてJAK/STATを記憶しなければならない。JAK(キナーゼ)が受容体に会合しており、リガンド結合により二量体化して相互にリン酸化する(リン酸化部位が新たなドッキングサイトになる)。STATがリン酸化されると核に移行して転写調節にはたらく。IL6R, EGFRなどはチロシンキナーゼ結合型であり、下流にJAK/STATを持つが、他にもMAPやAkt/PI3Kなどの活性化も引き起こす。(参考:IL6(wiki)EGFR(wiki)

(2)整理
神経伝達物質 ➡ 7TM, 4TM(イオンチャネル)
ペプチドホルモン・タンパク質ホルモン ➡ 7TM, 4TM(イオンチャネル)
ステロイドホルモン(VD, VA)・甲状腺ホルモン ➡ 核内受容体
エイコサノイド ➡ 7TM
増殖因子・サイトカイン ➡ 1TM(チロシンキナーゼ連結型)

(3)インスリンのシグナル経路は別項にまとめたので必ず記憶すること。