生化学の対策1

化学には弱い生物系の人も多いかと思います。その場合、少し負担になるかもしれません。このページでは医学寄りの問題も含めているので、基礎生物系の大学院志望者にとっては重要度が低い問題もあります。逆に、そういった問題は医学部学士編入試験で頻出します。


官能基の構造を覚える

チオール基:アミノ酸、グルタチオン、補酵素A(CoA)、親水性で弱酸性。
カルボキシル基:この基を持つものをカルボン酸と呼ぶ。親水性で弱酸性。

結合様式を覚える

ペプチド結合・エーテル結合・エステル結合・グリコシド結合・ホスホジエステル結合

☆高エネルギー化合物を説明せよ

ATP(アデノシン三リン酸)
・アデノシンに3つのリン酸基が結合している(一つ目はリン酸エステル結合、2,3番目は無水結合)。
ATP+H2O –> ADP + Pi(無機リン酸) のとき、ΔG= -30.5 kJ/mol
ATP+H2O –> AMP + PPi(ピロリン酸) のとき、ΔG= -32.2 kJ/mol

リン酸無水結合が「高エネルギー結合」である。ATPの加水分解に伴い放出される負のΔGが、エネルギー的に起こりにくい(自由エネルギーの増加を伴う)反応と共役することで、反応を進めることができる。

・ATP自身は下記の反応でADPから再生することができる(ゆえに、生体のエネルギー通貨とも言える)。
グルコース + ATP –> グルコース6リン酸 + ADP
ADP + ホスホエノールピルビン酸 –> ATP + ピルビン酸

・ATPは生体内では、グルコース、脂肪酸、アミノ酸などからつくられる。解糖系で基質のリン酸化でつくられるほか、酸化的リン酸化では大量に生成される。

NADH, NADPH, FADH2
これらは補酵素に分類される。還元型であるNADH, NADPH, FADH2は高エネルギー化合物であり、自分は酸化し、他分子に水素イオンを与えて還元すると、NAD+, NADP+, FADになる。

アセチルCoA
硫黄原子とアセチル基がチオエステル結合(高エネルギー結合)で結合しており、加水分解により自由エネルギーを放出し、アセチル基を他の分子に移す。クエン酸回路で代謝される。

アデニン、アデノシン、アデニル酸のちがいを理解する

・アデニン(塩基)がリボースに結合しているのがアデノシン(リボヌクレオシド)である。さらにリン酸基が付いたらアデニル酸(ヌクレオチド)である。

☆生体における核酸の合成について説明せよ

・ヌクレオチドのリン酸化糖はペントースリン酸回路から供給される。
・塩基はプリンとピリミジンで合成経路は異なっている。プリン骨格はリボース5リン酸の5位に組み立てられるが、ピリミジン塩基は遊離塩基として基本骨格を合成された後に、リン酸化糖に結合される。(ただし、プリン塩基は下記の再利用経路が90%らしい。)
・上記と他に、再利用経路があり、ヌクレアーゼにより遊離したヌクレオチドから塩基(グアニン、アデニン)が外され、それが新たにリン酸化糖に付加される。(この経路の障害はプリン塩基の尿酸への変換によって高尿酸血症を起こす。)

痛風を説明せよ

・プリン塩基の代謝物である尿酸が体液中に蓄積し、荷重がかかる母趾関節などに不溶性の結晶が生成することによる関節炎を起こす。
・原因として、腎臓からの尿酸の排泄障害、またはヌクレオチドの分解亢進による(プリン塩基→)尿酸の生成増加。
・尿酸ナトリウムによる尿路結石が腎障害を起こすことがある。

用語チェック

「ヌクレオソーム構造」「カリオタイプ」
「RNAポリメラーゼI」は核小体でほとんどのrRNAの合成を行う。
・ヌクレオチド除去修復の異常が色素性乾皮症の原因になる。
・単純タンパク質:加水分解してアミノ酸のみを成分とする。<=>複合タンパク質:糖鎖、脂質、ヘム、リン酸化タンパク質など。
・特殊アミノ酸についての覚え書き:
特殊アミノ酸はタンパク質中に見いだされることがある。

☆アミノアシルtRNAについて説明せよ

tRNA各々のアンチコドンに対応したアミノ酸をtRNAに結合させる反応を、アミノアシルtRNA合成酵素が触媒する。この酵素には校正機能もある
アミノアシルtRNA合成酵素は、アミノ酸に高エネルギーリン酸結合を(ATPの加水分解により)付加し、そのエネルギーを利用してアミノアシルtRNAが合成される。(「ATPのエネルギーを利用する」という意味を厳密に言うとこうなるということだと思われる。
*アミノアシルtRNA「合成酵素」というのには違和感があるがそう呼ぶらしい。

☆リボソームによるポリペプチド合成の過程を説明せよ

ポリペプチドを結合したぺプチジルtRNAがP部位(真ん中の空間)に存在する。A部位には次のコドンに相補的なアンチコドンを持つアミノアシルtRNAが入る。
ペプチド鎖が、ぺプチジルtRNAからアミノアシルtRNAのアミノ酸へと転移され(この表現を覚える)、リボソーム大サブユニットが3’側に移動する。
すると、E部位にぺプチジルtRNAが移動したことになり、リボソームから放出される。

☆フェリチンとトランスフェリンについて説明せよ

フェリチンは細胞内の鉄貯蔵タンパク質で、トランスフェリンは血中で鉄の運搬を行う。鉄が過剰な時にフェリチンの発現が増し、鉄が欠乏しているときはトランスフェリン受容体の需要が増す。どちらの場合も鉄のセンサータンパク質として、アコニターゼが働く。
・鉄が欠乏している状態では、アコニターゼ(Aconitase)がフェリチンmRNAの5’側の鉄応答配列に結合して翻訳阻害、トランスフェリン受容体のmRNAに対しては、アコニターゼが3’側の鉄応答配列に結合してmRNAの安定化と翻訳促進に働く。鉄が過剰になると、これらの結合が解除され、フェリチンの発現上昇とトランスフェリン受容体の発現低下が起こる。

(*アコニターゼは鉄不足に対応するセンサー機能のほか、クエン酸回路での機能もあるらしい。)

PDBの、フェリチンとトランスフェリンの記事が判りやすい。細胞内における余分な鉄イオンは、フェリチンによるタンパク質の殻の中へ安全に閉じこめられている(細胞外の鉄の大部分はヘモグロビン内で酸素の運搬を助けている)。血液中で鉄を結合したトランスフェリンは受容体に結合すると、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれる。pH低下によりトランスフェリンは鉄イオンを放出する(細胞内に鉄が供給される)。フェリチンはすべての細胞に存在する。トランスフェリンは赤芽球へ作用する(=ヘモグロビン原料の鉄を供給する)ことが重要である。

 

ジデオキシ法を説明せよ
輸送タンパク質について説明せよ

・ヘモグロビンは、赤血球中で酸素や二酸化炭素の輸送を担う。
アルブミンは、遊離脂肪酸やビリルビンの輸送を担う(吸着による)。*浸透圧調節の次のアルブミンの役割として、記憶しよう。
・トランスフェリンは鉄、セルロプラスミンは銅を運搬。(ともに血漿タンパク質)

アミノ酸がどのような物質か説明せよ

・アミノ基(塩基性)とカルボキシル基(酸性)をもつ化合物で、これらがα-炭素に結合している。
・グリシン以外は鏡像異性体(光学異性体)のうち、L型であり、L型アミノ酸である。(4種類の官能基が付いた炭素が「不斉炭素」と呼ばれる。
・タンパク質を構成するアミノ酸は20種類ある。ただし、プロリンは正確にはイミノ基をもつイミノ酸である。

タンパク質の構造的特徴を説明せよ

・アミノ酸がペプチド結合によって多数連なり、重合体になる。アミノ酸の順序のことを一次構造、ポリペプチドの部分的な折り畳みの構造を二次構造、立体的に折りたたまった状態を三次元構造、複数の三次元構造をもったポリペプチド鎖が集合した状態を四次構造と呼ぶ。

鎌状赤血球貧血と嚢胞性線維症を説明せよ

どちらも遺伝子変異による。ヘモグロビン(αとβの四量体)には多くの変異が知られているが、特にヘモグロビンβ鎖の変異(E6V)は鎌状赤血球になる。ヘモグロビンSと呼ばれ、脱酸素化されると不溶性のポリマーができ、会合して線維上になる

嚢胞性線維症では、ClチャネルをコードするCFTRが変異によりプロテアソーム分解されたり活性が低下したりする。肺の粘液層が厚くなり呼吸障害や感染を起こす。

リソソーム病の例を挙げて説明せよ
☆タンパク質分解酵素によって胃や膵臓が分解されないのはなぜか

3つのメカニズムで消化酵素から臓器が守られている。
(1)前駆体(チモーゲン)として分泌され、酸やタンパク質分解酵素の作用で分解されて活性化型になる。
(2)阻害タンパク質が結合しているが、必要な時に外れて活性化する。
(3)胃や小腸の内側は、酸に溶解しない粘性のムチン(糖タンパク質)に覆われており、プロテアーゼ分解を受けにくい。

☆アミノ酸の、アミノ基の代謝を説明せよ

・タンパク質は種々のペプチダーゼで最終的にアミノ酸となり、小腸絨毛の上皮細胞から吸収され、毛細血管に入る。毛細血管から門脈を経て、肝臓に入り、(新しいタンパク質合成に使われない場合は)そこで異化される。
代謝過程では、先ずアミノ基転位反応によりグルタミン酸が作られ、酸化的脱アミノ化反応によりグルタミン酸からアンモニアを遊離 させる。
・遊離したアンモニアは肝臓の尿素回路で処理される
・なお、肝臓以外で発生したアンモニアはグルタミン酸に結合されてグルタミンとなり、グルタミンの状態で肝臓まで運ばれる。肝臓でグルタミン酸とアンモニアに分離し、尿素回路で代謝される。

まとめると肝臓で、アミノ基>グルタミン酸>アンモニア遊離>尿素回路

アミノ基転移反応(wikipedia)は非必須アミノ酸合成においても重要らしい。)

☆アンモニアの解毒について説明せよ

肝臓に存在する尿素回路で処理される。細胞質とミトコンドリア内の複数の反応から構成される。
肝機能の障害は高アンモニア血症を起こす。
・アルギナーゼがアルギニンを加水分解することで尿素が生成され、同時にオルニチンができる。オルチニチンは再度アンモニア処理の次の回転に用いられる。(尿素回路は「オルニチン回路」とも言われている。)

*アミノ酸=>グルタミン酸=>アンモニア=>尿素 (オルニチン回路)

アミノ酸の、炭素骨格の代謝について説明せよ

アミノ酸は神経伝達物質やその前駆体であるものも多い。アミノ酸の代謝酵素が遺伝的に欠損していると重篤な神経発達障害や発達遅延を引き起こす。20種類のアミノ酸のアミノ基から生成されるアンモニアはすべて尿素回路に入るが、炭素骨格の方はアミノ酸の種類によって代謝経路が異なる。しかし、それらの最終代謝産物はすべてクエン酸回路に入り、糖新生に使用されるか、あるいは二酸化炭素と水まで完全酸化される。
・脱アミノ化の後に、ケトン体や脂肪酸に転換されうるものをケト原性アミノ酸という。糖原性でない(糖新生に使われない)ケト原性アミノ酸はロイシンとリシンのみ。

・ポルフィリン症とは何か。

☆黄疸を説明せよ

<排泄までの関係は複雑であり、問われないであろう>

・黄疸は、ヘムの分解産物であるビリルビンが体内に蓄積することで起こる。
・黄疸の原因は3つに大別され、(1)ビリルビンの産生過剰(溶血性疾患等)、(2)ビリルビンの排泄障害、(3)水溶性(抱合型)ビリルビンへの処理能力の低下、が原因となる。
・出生後、胎児用の赤血球の溶血により多量のビリルビンが生じるが、肝臓の働きが弱いため黄疸が生じる。
・(新生児で)増大したビリルビンが結系脳関門を通過して大脳基底核に到達して沈着すると非常に危険(「核黄疸」と呼ばれる)。
・ヘモグロビンは、タンパク質部分であるグロビンと、鉄イオンを含むヘムに分解される。ヘムはヘムオキシゲナーゼにより鉄イオン・一酸化炭素・ビリルビルジンに分解されるビリベルジンが還元されてビリルビンができる
・ヘムの分解で生成されたビリルビンは非抱合型で水に溶けない。ビリルビングルクロノシルトランスフェラーゼによりグルクロン酸が抱合し、抱合型のビリルビンになることで水溶性で排泄されやすい形になる(これらは肝臓での反応)。抱合型ビリルビンは大腸でウロビリノーゲンになり糞便中に排泄される。

*ヘム>>ビリルビン>抱合型ビリルビン>ウロビリノーゲン(排泄)

フルクトースの代謝(グルコースと比較して)

果糖の代謝(脂質と血栓の医学)のページに詳しい。要点は、グルコースは全身の細胞で代謝できるが、フルクトースは基本的に肝臓(と筋肉でも少し)である。取り過ぎは肝臓でトリグリセリドへ変換される。フルクトース自体は直接血糖値に影響しないが、インスリン分泌を多少促進する作用があるらしい。