書評「バッタを倒しにアフリカへ」
はじめに
読み物として十分面白く、お勧めできます。ただし、本のあらすじは目次から分かるように「(バッタ研究のための)アフリカ冒険記」です。研究内容自体はほとんど含まれていないことに気を付けてください。(バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書) 新書 – 2017/5/17 前野ウルド浩太郎 (著) )
目次
第1章 サハラに青春を賭ける 第2章 アフリカに染まる 第3章 旅立ちを前に 第4章 裏切りの大干ばつ 第5章 聖地でのあがき 第6章 地雷の海を越えて 第7章 彷徨える博士 第8章 「神の罰」に挑む 第9章 我、サハラに死せず |
単にエンタメ的に面白いというだけでなく、研究者キャリアに進もうとしている学生や若い人にとって参考になるとも思います。「いかに、研究を続けながら食べていくか」という切実な問題に対して、かなり特殊だと思いますが、一つの回答を示唆していると思います。
アマゾンでの評価がやたらと高いけれど、ここでは研究者的な目線での感想を書いてみます。
筆者が努力家であることはわかる
率直に、筆者はバッタ研究に熱意を燃やす、努力家だと思います。研究者の多くはそれなりの苦労していると思うけれど、筆者がアフリカで置かれた状況はかなり厳しめだと思いました。普通なら初めの1年くらいで日本に帰国しそうです。
私は筆者の研究能力を全く分からないけれど、自身の研究を続けるためのトラブル対処能力や行動力は素晴らしいし、尊敬したいです。著者自身は、アフリカをバッタ食害から救うという社会貢献よりは、バッタへの愛が研究への動機になっているようです。しかし、いずれにせよ社会を変えていくのはこういう熱意ある研究者だと信じたくなりました。
ちょっとキャラ設定があざといと思う
逆に、マイナスだと感じたところもあります。私は大学の研究者なので、バッタを愛する著者を、「自分と違う世界の変人」とは捉えないわけです。同業を仕事とする著者の、思考過程に迫ろうとして、この本を読みます。
著者の文章は軽快で読みやすく、ところどころユーモアが挿入されているので楽しく読み進めることができるのですが、その面白さがどこから来るかというと、それは筆者のキャラ設定の面白さであることに気づいたのです。
昆虫に愛を注ぐ変人・狂人という設定は、映画やアニメの中では存在しているものの、現実には「ありそうでなかった」感があります。実際そんな極端な人はいないです。穿った見方をすると、著者は一般人のある種の「研究者イメージ」を貫くことで読者の期待に応え、さらに、そこに就活とか研究費獲得などの現実世界の要素を織り交ぜることで、この本を面白くする戦略を取ったように思えます。
そんなことあれこれ考えてみると、結構痛々しいとも思ってしまう。
表紙のコスプレ。これは、研究者の仕事なのか??
自己マーケティングによって研究資金を稼ぐことは素晴らしいのですが、本業の研究のネタでぜひ話を広げてほしいと私は期待します。
出版社的には、「世間は研究ネタなんて興味ないから、販売数を増やすため熱血変人アフリカ記として出版した!(¥^_^¥)」ということなんだろうけれど、研究者が研究によって自己PRできない状況は残念でもあります。
といっても、一番私が感じたのは「色々な生き方があることは素晴らしい。」 です。
サイエンスに大衆迎合的な要素が入りすぎるのは良くないとは思ってますが、こういう濃いキャラ設定の研究者がいるのも良いことかもしれません。
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興味があれば読んでみてはいかがでしょうか。
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