私立&国立医学部の進級の難しさ|ストレート卒業率比較から
「医学部は勉強が大変で留年が多い」「進級が難しい」とよく言われますが、具体的にどれくらい大変なのでしょうか。特に、私立医学部の方が進級が難しいとよく聞くので、実際どの程度なのか調べてみました。
文部科学省の統計値からグラフを作成しました。(https://www.e-stat.go.jp/の「学校基本調査」からデータをダウンロードしました)
ストレート卒業率は国立で87%、私立で84%くらい
平均で示すと少しだけ私立医学部のほうがストレートで卒業できる割合が少ないようです。データは「医学部医学科を卒業した人が、何年前に入学した人か」を示しています。
84%や87%という数字が、高いのか低いのか、あまりイメージがわかなかったので、ほかの学部との比較グラフもつくってみました ↓
国立大学をストレート卒業する人は医学科で86.8%、理学部88.9%、工学部は87.6%となったので、医学系のストレート卒業率が極端に低いわけではなさそうでした。医学生(私)の実感としては、医学部で求められる勉強量が多いと思っていますが、「卒業率」という数値としては大差がなさそうです。医学科は6年制であるため、ほかの4年制学部の人達よりも若干ストレート卒業率が下がっていますが、これは進級の難しさを意味すると言えないと思います。
ストレート卒業率は個別大学をみるのが肝要
平均値をだしてグラフを作るよりも、やはり個別の医学部の数値が気になるのでつくってみました。まずは国立大学から↓
年度によって異なる可能性もあるので一概に「〇〇大学では低い」とは言えないと思いますが、70%前半から90%後半までの大きな差があります。これだけ差が大きいと、環境の差もあるのではないかと気になってきますね。
次に私立大学のデータを示します ↓
私立医学部では、国立よりも大学間の差が大きいようにみえます。差が大きいので、いっそう大きな要因があるような感じはします。
ストレート卒業率が65%から70%前後ということは、医学部に入学したうちの1/3は6年間で卒業できないことを意味しています。実際は、以下の2つの理由があるので医師免許をストレートに6年で取得する人はもっと少なくなりそうです。
- 医師免許を取得するためには医師国家試験に合格することが必要
- 上記グラフには「途中でドロップアウトした人」は含まれていない
(あくまで「卒業した人」が卒業にかかった年数を示したグラフです)
医学部に入るだけでも難しいですが、さらに医師になるのもなかなか困難であるのは、間違いなさそうです…。
はっきり断定することはできませんが、大学間の差が大きいとやはり「環境の差」はあるのかと勘ぐってしまいます。もし、毎年同じような傾向が続いているのであれば、卒業が難しすぎる大学の受験は少しためらう方がいいのかもしれません。(受験生のうちにそんなことを考える余裕のある人は少ないと思いますが…。)
こういうことは、私のように「入学した後に」気になってしまう情報です。なぜなら大学でテストに追われているので、「自分が進級できるか?この難易度はどの大学でも同じだろうか?」というふうに気にしてしまいがちなのです。でも本当は「入学する前に」知っておくとよい情報だと思います…。
【番外1】男女の傾向に差があるかもしれない
「教育における男女差」は、ややセンシティブなテーマかもしれませんが、政府統計のデータが男女別になっていたのでグラフ化してみました ↓
これも、何かを主張するなら毎年のデータをとって統計計算するべきですが、「ストレート卒業率だけ」で比較すると女子学生の方が高いかもしれません。
医師国家試験の合格率には大差がなさそうだったので、自分の実感も含めて考えると「女子はコツコツ努力型」という傾向を少しは反映しているかもしれません。その努力が国試合格率に反映されていないという解釈など、色々出来そうですが、これくらいの差であれば仮に統計的有意であっても、実際問題は個人レベルの差のような感じはします。
【番外2】他の医療系は私立/国立の差がもっと大きい
医学部のストレート卒業率は、平均を調べると、国立と私立で大差はみられませんでした。私立大学の医療系では、「国試の合格率を高めるため、成績不振者は卒業させない(=国試受験資格を与えない)」傾向が一部存在すると言われます。そこで、医学科以外の医療系学部ではどういうデータになるか気になったのでグラフを作ってみました ↓
グラフをみると、全体の傾向としては歯学部と薬学部では私立と国立の差が大きそうです。医学部でみられた差はごくわずかなので、医学部に関しては、”私立大学と国立大学をわけてストレート卒業率や進級の難しさを議論する”ことはあまり意味がないように思います。「私立医大の進級は~」と言うよりは、「〇〇大学の進級は~」と考えたほうが正しそうなので、この話題のときは注意したほうがよさそうです。
①【大人の医学部受験】元医学部教員の医学生が「学士編入」をゼロから詳しく解説
→ 医学部編入に必要な情報を網羅しています。
②医学生向け研究の始め方・取り組み方ガイド(医学生・学士編入志望者に有用)
③私が大学教員を辞めて医学生になった経緯(研究関係者・学士編入志望者に有用)
以上おしまい。