研究者の長時間労働ってどんな感じ?

研究分野によって程度の差はありますが、大学の研究者は一般的にかなりの長時間労働です。

この記事では元大学研究者の私が、生命科学分野の実例を紹介しながら、研究者の長時間労働について説明していきたいと思います。


長時間労働を美徳とする価値観がある

大学の研究者は「裁量労働制」で雇われており、自分の裁量で労働時間を決められます。なので、基本的に「残業という概念」自体がありません。それゆえに、企業勤めの研究者が「働き過ぎたら会社から嫌がられる」のとは異なっています。そもそも雇用形態的に、長時間労働を受容しやすい素地があるのです。

また、最近の大学研究者の大半は、数年以内の短期契約で働いているので研究業績をあげなければ無職になるリスクが身近にあります。そのため必然的に、業績をあげるために、労働時間が伸びてしまう傾向になります。9時~17時なんてありえません。少なくとも12時間くらい、若ければ体力の限り(多分14~16時間)職場に居るのが普通だと思います。

わたしの職場のボスが好きな言葉は、

「1日1時間多く働けば年間365時間、すなわち1か月分先に研究を進められる」

「土日働けば、休んだ人よりも1.4倍早く研究を進められる」

これらは、世間的な感覚ではブラック企業の上司のセリフそのものだと思いますが、これを金言のように語られるのが大学の研究室なのです。「土日なし深夜帰宅(時に研究室に寝泊まり)」みたいな働き方もそれほど否定的に捉えられません。

実際そんなハードワークを実行した人が研究者として成功して教授になっていますし、また「世界中の研究者と競争しているのだから、ハードワークしないと戦えない」と考えている人は多いと思います。(例外はあるでしょうが、基本的に私もそう思っています。)


ただし長時間労働の見返りは微妙

上記のセリフは間違ったことを言っているわけではないですが、現在のアカデミアは働けば見返り(ポスト)が得られる状況でもないというのが当事者にとっての大きな問題です。一昔前なら大学で職に就けない研究者はほとんどいなかったらしく、現在とは全く異なっていました。。

研究者の数の上での需給関係に加えて、研究手法の観点でも「泥臭いハードワーク」が無効になってきています。生命科学の分野では、20~30年前に遺伝子クローニング全盛時代があり、その際は労働力がモノを言う時代だったと思いますが、現在ではそういう研究手法は時代遅れとみなされています。「遺伝子クローニング→過剰発現株作成+KOマウス作成+…」みたいな平凡すぎる手法は競争相手の絶対数が多く、それだけでは競争に勝てる見込みが薄いです。

さらに、ハードワーク依存型の研究では労働力がモノを言うので、多数のテクニシャンや学生を投入できる予算豊富な大規模施設が有利と決まっています。それに勝つために個人の研究者相手に労働時間を増やせというのは合理的ではありません

国内視点で言えば地方大学は総じて不利ですし、世界視点で言えば日本の大学は総じて不利になっていくでしょう

前時代の成功者の経験は取捨選択して参考にするのがいいと思います。少なくとも「労働集約的な研究手法」による対価(期待値)は、過去と比較するとずっと低いです。(ハードワークは期待値を上げるけれども、昔よりもずっと低い。)

「手を動かしていると働いている気になる」のですが、それだけでは意味がないことに注意しましょう。評価は結果に対して、しかも競争相手との比較の上で付きますから…。