日本の科学の失速につきまして(Nature Index)

Nature Index Japanからの引用です:
・グレーが世界の論文数増加率、赤紫色は日本の:

While the decline of the US and the UK is only relative to China’s output, Japan’s has also fallen in absolute terms. Japanese researchers published about 600 fewer papers in WoS in 2015 than in 2005. While the decrease is less than 1%, the country’s share of the world’s articles dropped from 8.4% to 5.2%. Data from the Nature Index also shows a decline of 19.6% in Japan’s contribution between 2012 and 2016. [What price will science pay for austerity?(Ichiko Fuyuno, Nature 543, S10–S15 (23 March 2017) doi:10.1038/543S10a)]

(訳:米国および英国からの論文数は中国からの論文数増加の影響で相対的に減少しているが、日本の論文数はその絶対数が低下している。2015年は10年前と比べて論文数は600少なく、これは割合にして1%の減少であり、論文数の世界シェアでいうと8.4%から5.2%への減少である。。)


細かいところはデータベースの種類に依るみたいですが、どのデータベースを参照しても「日本は成長が止まっているため世界シェアは急速に減少」なのは明確なようです。

分野別にみると、論文数が全体の1/3近くを占める”Medicine”の分野での日本の失速が他分野よりマシなようなので、全分野でみると10年間で論文数キープ(成長なし)ということのようです。といっても、Medicine以外の分野で、MathmaticsとAstronomyを除く全11分野で日本からの論文の絶対数が減少しているというのは少々驚きです。現状維持ですらなくマイナスなんて。

総じてひどいけれど、Biochemistry/Molecular Biology, Neuroscience, Pharmacology, Immunology, Plant Science, Agricultureといった基礎生物学系は全部低下ですね。

日本政府も問題をだいぶ前から認識しているから、色々やっていると記事にはあるけれど、

The top five institutions of the country’s 86 national universiteies received almost half of the more than 100 billion yen…(上の記事から引用

…まあ、若いポスドク使い捨て旧帝大ばかりに予算を費やしてもねぇ。(賛否あると思いますがわたしは基本的にそう思います。)

彼らが若手のとき、旧帝で良く働いた結果が2005年頃の豊富な論文です。その世代の多く(一部?)は現在高齢ポスドクとか派遣社員(大学への派遣含む)とかで働いていたりします。それを見た旧帝大等に所属する優秀な、たぶん分別ある大学院生が研究者のキャリアを魅力的に思うかどうかは甚だ疑問。

「若手にもっとポストを!」とよく叫ばれるのはなぜでしょうか。バイオ系の研究は基本的にマンパワーが必要だから、今だって若手の労働力の需要は比較的あります(ただし40くらいまでの安月給)。むしろ若手が恐れるのは、「教授にこき使われて業績出ず、年とったら捨てられて路頭に迷う」ことです。

これを恐れているから学生が博士課程に進まなくなっているのに、「もっと若手にポスト準備します」なんて言ったってほとんど意味ないです。教授クラスでいま既に安泰なポジションの人たちはよくそんなことを言いますけど、労働力がほしいからなんですね。

雇用主にとって派遣を雇うのが都合がいいようです。


Nawa says the university will try to retain as many tenure positions as possible by cutting spending in other areas, while seeking more external funding to hire more contract-based researchers.

These positions will make young researchers more mobile and stimulate interdisciplinary collaboration, which will ultimately strengthen research capability, Nawa says. “We understand people are our most important asset.”(同記事より

なかなか大人の冗談のようにも思えます。結局いつもの通り、下の世代にツケを払わせようと。

でも、もう無理かな、東大・京大の大学院博士課程が定員割れしている現状では、当分日本のアカデミアの失速は止められないと思います。