医学部「浪人差別」報道の奇妙さ(医学生の意見)

最近、「医学部で不適切入試。浪人生を不利に扱う」というのがニュースになっているので、三十で医学部に入学した私が自分の考えを書いていこうと思います。全部個人的な見解なのでご注意ください。

筆記点数だけで決めるって誰が言った(?)

私個人的には、現役生と比べて浪人生に要求される筆記の点数が高くなることは、仕方がないと思っています。これを「浪人生差別」とか「浪人生では不当に減点」とか表現する人がいますが、私は全くそうは思いません。普通、浪人生は現役生よりも勉強時間を確保できたはずなので、現役生よりも筆記試験では得点できて当然ですし、入試の選考において浪人生と現役生で何らかの得点調整を加えることに関しては、一定の論理性があると感じます。

「筆記試験の得点のみで合格者が選別されるべき」と考えている人は、まずは各大学の募集要項を確認するといいです。どこにもそんなこと書いていませんし、むしろ逆なのです(後述)。なかでも「大学のアドミッションポリシー(受け入れ方針)」はとても重要で、大抵その最初に、欲しい人材として「基礎学力・コミュニケーション力・倫理性などなどが高い者」が掲げられ、最後に「学力検査と面接により、総合的に適性を評価する。」と書かれています。

強調したいのは、「筆記試験で測定できる学力」は、あくまで受験生に求められる項目の一つにすぎないということです。そもそも医学部で面接も課されるようになった経緯は、「学力偏重で医師の素質がない人が医師になっている」というのが問題になったからです。なので、筆記試験の得点に偏重したら、それはそれで批判の対象になることが予想できます。

また昨今の医学部の特徴として、一般入試の他にも、推薦入試(地域枠)や、学士編入学、帰国子女枠など、多様な人材を受け入れようとしていることも挙げられます。なのでなおさら、「一律筆記試験の点数で合否が決まるべき」という指摘は的外れなのです。


そもそもの不公平が医学部には多い

「浪人生を不利に扱う」報道は、もっと明確な不平等を意図的に無視しているようで違和感があります。そもそもですが、私立大学では学費に数千万円がかかるので、入学できるのは裕福な家の子どもだけです。これは明らかに「浪人生差別」よりも不平等ではないでしょうか。金持ちの子以外は、国公立の医学部を目指すので、医師になるハードルが金持ち子よりもずっと高いです。

国立大学にある、「地域医療枠」も、典型的な出生地による差別と言えてしまうと思います。もし「浪人生差別」という表現が妥当なら「医学部出生地差別」はもっと否定しようがないと思います。そもそも医学部で地域枠を導入するようになった経緯は、「過疎地域での医療崩壊」というのが問題になったからです。ですが、出身地域なんて自分ではどうにもなりません。多浪生が筆記試験の得点から数点を機械的に引かれるくらいは、地域枠差別に比べたら優しいものと思います。

出身地域や親の裕福さによる医学部入試の制限は、明記されているから問題ない(一方、浪人生差別は明記されていないから問題)という考えもあるかもしれません。これは論理的には正しいかもしれませんが、でも一般に、「年齢相応の能力を相手に期待する」のは、世の中の常識の範囲内だと思います。例えば多浪生に対して、面接官が「若い現役生ではなくあなたを採用する社会的メリットは?」と尋ねるのはごく自然だと思います。こういうのを圧迫面接と捉える人もいるらしいけれど、筋違い甚だしいです。医学部に限らず、大学にとって人材の輩出は社会的な責務なのです。できるだけ見込みのありそうな人を優先して投資するのが自然だと思います。(そして、人材育成が責務であることや、優秀な人材候補が欲しいことは、募集要項にはっきり書かれています!!)


多浪はデメリットが大きい。別の選択肢も

多浪生は精神的なタフだったとか、ポジティブな解釈もできますけれど、やはり「学力が足りなくて時間がかかった」という負のインパクトが強いと私は思います。多浪の末の合格者は確かに粘り強さがあるのでしょうが、現役生にそれがないとは言えません。総合的には、現役生が優秀であることを認めざるを得ない気がします。

また「受験勉強」自体があまり本人にとって生産的な活動ではないのも問題です。最終的に医学部に入ればよいのかもしれませんが、失敗した場合のリスクが高いです。間違ってたらゴメンですが、私の感覚では、n年浪人した人はほとんどの面(精神年齢含む)で、18+n歳の高校生と同等です。医学部浪人で2,3年以上粘っている受験生は、仮面浪人でも何でも、人生(キャリア)を進める選択も入れた方がいいのではないかと、私には思えます。(例えば看護系はかなりコスパがいいです。医療職で且つすぐに経済的に自立できるから。)

キャリアを進めつつ、年齢に寛容な医学部を受験するのも悪くないと思います。編入生や再受験生の割合が多いことで有名な、滋賀医科大学の学士編入の募集要項から以下に引用します。現役生以外の受験生にはぜひ読んでほしいです。

滋賀医科大学は滋賀県を中心とした地域医療や保健に幅広く貢献しておりますが、今後の本学の発展には、入学する学生の質の向上とともに、選抜する人材の多様化が必須であります。特に、ほかの学問分野の専門知識や社会経験等を有する大学卒業者を学生として迎え入れることは、教育・研究の活性化に大いに役立つことと考えています。

そのために、大学での学習経験や卒業後の社会経験を通じて望ましい医師像を明確に把握した強い勉学意欲を持った学生を第2年次の後期(10月)に編入学させて、在学生と相互に切磋琢磨することにより、社会に求められる全人的な医療を担える医師や優秀な研究者を養成します。(平成30年度医学部医学科第2年次後期学士編入学学生募集要項より)

こういう文章を読むと、①予備校浪人よりは他大学での仮面浪人がよさそう、ということや、②筆記試験だけが基準なんてことはなさそう、ということが感じられると思います。

大学ごとに求める人材は色々です。高齢・浪人への寛容さもまちまちなので、年を取ってしまった受験生は、それをちゃんと調べる必要があります。


まとめ:
医学部の存在意義から考えて、「筆記偏重でない、人物重視の多様な選考方式」「質の高い学生への投資」は理に適っている。受験生に対し「年齢相応の能力」を期待するのも常識の範疇。